日産の高額な役員報酬が注目、ホンダより上…ホンハイによる日産「買収」も焦点

6 時 前 10
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 経営統合に向けた協議を進めていた日産自動車とホンダ。昨年12月に基本合意書を締結したばかりだったが、約1カ月あまりで破談となった。持ち株会社方式を検討していたなか、1月下旬にホンダが日産に対してホンダによる子会社化を提案したことに、日産が大きく反発したことが原因と報じられているが、専門家は「経営が悪化している日産がリストラ策を示すことが、ホンダにとっては経営統合の前提条件だったが、日産は具体的な案を示せなかった」という。そうしたなか、日産の役員報酬総額が約29億円とホンダのそれの約1.6倍にも上る高額な点も注目されているが、なぜそれほど高額なのか。

 日産とホンダが持ち株会社方式による経営統合に向けた協議に入ることで合意したのは昨年12月。背景には日産の経営悪化があった。北米事業をはじめとする海外事業の悪化などに伴い、日産の2024年4〜9月期連結決算は、売上高は前年同期比1.3%減の5兆9842億円、営業利益は同90.2%減の329億円、経常利益は同71.9%減の1161億円、純利益は同93.5%減の192億円。当初は3000億円の黒字予想だった25年3月期通期の純利益を「未定」に修正し、グローバルで生産能力の20%削減と従業員9000人の削減を行うと発表した。昨年3月に発表した中期経営計画「The Arc(アーク)」では26年度にグローバル販売台数を23年度から100万台増となる440万台に、営業利益率を6%以上に引き上げるとしていたが、11月には撤回した。

 資金繰りにも懸念が生じている。日産は25~26年3月期に約1兆円の社債の償還を迎える。また、23年に仏ルノーとの資本関係を見直してお互いの株の15%を持ち合うかたちにした際、ルノーはそれまで保有していた日産株をいったん信託銀行に信託しており、日産は今後買い戻す必要があり、現時点で6億8600万株、約2500億円相当が残っているとされ、その買い戻し資金も必要となる。日産の自動車事業は昨年9月末時点で約1兆4000億円の手元資金を持っているため、すぐに資金繰りに窮する可能性は低いとみられているが、23年3月には米格付け会社S&Pグローバル・レーティングが日産の長期発行体格付けを「トリプルBマイナス」から投機的水準となる「ダブルBプラス」に引き下げ、24年11月にはムーディーズ・ジャパンが日産の発行体格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更(格付け自体は「Baa3(トリプルBマイナスに相当)」で据え置き)するなど、格下げ圧力が強まっている。そのため、社債発行時に大きな上乗せ金利が必要となるなどして資金調達コストが上昇する懸念がある。

ホンダが子会社化を提案した背景

 そうしたなかで日産が繰り出した延命策が、昨年8月にEVの分野などで戦略的パートナーシップを締結していたホンダとの経営統合だった。予定では今年6月に最終合意を締結し、来年(25年)8月までに両社の持ち株会社を上場させて経営統合が完了する計画だったが、協議はわずか1カ月余りで破談。すでに1月の段階で不穏な空気が流れていた。両社は1月までに統合の方向性について一定の判断をする予定だったが、期限を2月中旬に延期していた。

 自動車業界に詳しいジャーナリストの桜井遼氏はいう。

「ホンダとしては、日産の経営がきちんと自立していることが経営統合の前提条件であり、1月中に具体的なリストラ策を提示することを求めていました。ですが日産は人員削減や生産能力削減について、具体的にどこでどれだけの規模の削減を行うかを提示できなかった。そこでホンダは、日産を子会社化すればホンダが主導するかたちでリストラを進めやすくなるのではないかと考え、1月下旬にそれを日産に提案したものの、日産社内での反発が強く、日産側が合意の破棄を申し入れるという流れになりました。もっとも、日産側に1月中に急いで具体的なリストラ策をまとめようという動きはみられず、両社間のボタンの掛け違いがあまりに大きすぎました。

 ちなみにホンダが子会社化を提案した背景としては、日産は現在、提携する三菱自動車の株式の約27%を保有しているため、ホンダが直接的に三菱自動車の経営に参画できるわけではないものの、資本関係を通じて影響を持ちやすくなるという点もあるとみられます」

 注目されるのが台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)の動きだ。昨年、ホンハイは日産の買収に向けた動きを強め、日産がそれを回避するためにホンダとの経営統合に大きく傾いたともいわれていた。ホンハイはEV事業を将来的な成長の柱に据えており、技術力と海外販路を持つ日産への出資を通じてそれらを手に入れることが目的とされる。今回のホンダとの破談を受け、再びホンハイが日産の買収に向けた動きを強めるとの見方もある。

「ホンハイのEV事業部門の最高責任者は、日産の元副COO・関潤氏。日産の社長の椅子を内田誠氏、アシュワニ・グプタ氏と争って敗れたことから日本電産(現ニデック)に移籍しました。いまだに日産に未練があり、ホンハイの日産株式取得を誘導して社長に就くことを狙っているとされています。ただ、ホンハイはタイ石油公社と展開する予定のタイでのEV事業は失敗しました。スマートフォンの受託生産と並ぶ成長事業への育成を見込んでいたEV事業はうまくいっていません。このため、ホンハイがさらに自動車関連事業に投資して、ホンダとの経営統合が破談した日産の株式取得に動くのかは、不透明です」(桜井氏)

日産、役員報酬総額が高額な理由

 一連の経営統合の動きをめぐっては、経営危機にあるはずの日産の役員報酬総額(約29.3億円/24年3月期)が、ホンダのそれ(約17.9億円)の約1.6倍にも上る点も議論を呼んでいた。ちなみに有価証券報告書によると日産の内田誠社長の23年度の総報酬額は6億5700万円。

「24年3月期に過去最高益を達成したトヨタ自動車ですら同年度の役員報酬総額は約36.9億円で、そのうち16億円は豊田章男会長の分が占めるため、他の役員の報酬はそれほど高くありません。日産は社外取締役の報酬も高額なことで知られており、社外取締役を含めた役員のなかには、ホンダとの経営統合によって高額な報酬を失うことを懸念して統合に後ろ向きな役員も少なくないといわれています。日産の役員報酬が高額な理由は、カルロス・ゴーン時代に『役員報酬を国際標準に合わせる』との名目で引き上げたためですが、内田社長としては高額報酬を約束することで役員からの抵抗を抑え、自由に経営しやすくなるという面もあるでしょう」(桜井氏)

(文=Business Journal編集部、協力=桜井遼/ジャーナリスト)

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