「よろしくお願い申し上げます」という表現は正しい？
「よろしくお願い申し上げます（よろしくおねがいもうしあげます）」とは、挨拶や物事を依頼するときなど、幅広いシーンで使われる正しい表現です。
この記事では、「よろしくお願い申し上げます」の意味や言葉の成り立ちなどを解説します。
■意味と言葉の成り立ち
「よろしくお願い申し上げます」の意味は、「よろしく」と「お願い申し上げます」に分割して考えます。
「よろしく」は形容詞「よろし」の連用形で、「程よく」「適当に」という意味があります。何かをお願いするときに添える言葉です。
「申し上げます」は「言う」の謙譲語である「申し上げる」に丁寧語の「ます」を付けた敬語で、「お願い申し上げます」は「お願いを言わせていただく」という意味になります。
具体的に何かを依頼するときはもちろん、特別な意味はなく挨拶の締めとしても使われるフレーズです。
「よろしくお願いいたします」と意味は同じですが、「よろしくお願い申し上げます」のほうがより丁寧な敬語表現であり、ビジネスシーンでは目上の人や取引先、顧客などに使う場合に適しています。
■二重敬語にはならない？
「よろしくお願い申し上げます」の「お願い」は「願い」に「お」をつけた尊敬語で、さらに謙譲語の「申す」と「上げます」を使っているため、厳密には謙譲語が重複した二重敬語表現にあたります。
しかし、現代では一般的に幅広く使用されている表現であり、間違った敬語とはされていません。日本語には、二重敬語であってもよく使われているために問題がないとされる表現は多く、「よろしくお願い申し上げます」もその1つです。
「よろしくお願い申し上げます」の使い方・例文
「よろしくお願い申し上げます」の使い方は、主に何かを依頼するときと、会話やメールの結びに挨拶のように使うときの2つに分けられます。
ここでは、2つのシーンに分けて「よろしくお願い申し上げます」の例文をご紹介します。
■依頼の意味で使う
相手に何かを依頼する際、「依頼の件をお願いする」という意味で使います。また、具体的な依頼ではなくても、関係の継続をお願いする際、「今後ともよろしくお願い申し上げます」といった使い方をします。
（例文）
- 今月分の請求書をお送りいたしますので、内容をご確認のほど、よろしくお願い申し上げます
- 先日はご招待いただき、誠にありがとうございました。楽しい時間をすごせました。今後とも末長くお付き合いいただけますよう、よろしくお願い申し上げます
■会話やメールの結びで使う
会話やメールの最後に、挨拶の締めとして「よろしくお願い申し上げます」を使います。さまざまなシーンに使えて便利な表現ですが、普段接している上司や同僚などに使うと堅苦しくなるため、「よろしくお願いいたします」を使うのが一般的です。
（例文）
- 先日はご多忙の中、イベントにご出席いただき、誠にありがとうございました。今後ともご愛顧賜りますよう、よろしくお願い申し上げます
- 以上のとおり、ご報告させていただきます。何卒よろしくお願い申し上げます
「よろしくお願い申し上げます」の表現方法
「よろしくお願い申し上げます」は、文脈によってさまざまな言葉を添えることがあります。状況に応じて表現を変えることで、より丁寧な印象になります。
ここでは、さまざまな表現方法についてみていきましょう。
■どうぞよろしくお願い申し上げます
「どうぞ」は、「相手に依頼・お願いする気持ち」を強く表したいときに使う表現です。
言葉の意味が変わることはありませんが、「どうぞ」を添えることで、相手に対してより丁寧な印象を与えます。
（例文）
本日は遠くからお越しいただき、誠にありがとうございます。ご案内をさせていただく〇〇です。どうぞよろしくお願い申し上げます
■今後ともよろしくお願い申し上げます
「今後とも」をつけることで、これからも長く関係を継続していきたいという気持ちを示します。継続的な取引関係にある相手や顧客に対して使われます。
同じように継続性を願う表現として「引き続き」というフレーズをつける場合もあります。こちらはややカジュアルなニュアンスがあるため、付き合いの長い取引先や直近の上司などに使うのに適しているでしょう。
（例文）
この度のご対応、誠にありがとうございます。これからもお客様のお役に立てるよう、より良い商品を提供してまいります。今後ともよろしくお願い申し上げます
■ご確認のほどよろしくお願い申し上げます
「ご確認ください」ではなく「ほど」を使うことで直接的な表現を避け、相手に敬意を払いながら柔らかなニュアンスにしたフレーズです。
特にメールで依頼をする場合、声のトーンや表情がわからないため、こちらの気持ちを伝えるために、より丁寧な表現が求められます。確認を依頼する際も「ほど」を添えることで、マイルドな印象になるでしょう。
（例文）
商品に納品書と説明書を添付しております。内容に間違いがないか、ご確認のほどよろしくお願い申し上げます
■何卒よろしくお願い申し上げます
何卒（なにとぞ）とは、依頼やお願いの気持ちを強めたいときに使う表現です。「絶対」「必ず」といった強い言葉を避け、柔らかい表現で相手に敬意や配慮を示します。
「何卒」を使用するときはお願いする内容・理由を明記するようにして、同じメール内で何回も使うのは避けるようにしましょう。
なお、「何卒」は丁寧でかしこまった表現のため、「よろしくお願いします」というカジュアルな表現には組み合わせません。必ず「よろしくお願い申し上げます」と組み合わせましょう。
（例文）
申し込みが殺到しており、お送りした商品の到着までにはしばらくお時間をいただく場合もございます。何卒ご理解いただけますよう、よろしくお願い申し上げます
■ご査収のほどよろしくお願い申し上げます
「査収」は「さしゅう」と読み、金銭や物品、書類などをよく確認して受け取るという意味です。「ご査収」は接頭辞の「ご」を付けて丁寧にした表現で、「受け取って中身を見てください」という意味の敬語表現になります。
ビジネスの場面では、大切な書類を渡す際、必要なものが揃っているかを確認してもらいたいときなどに使います。
（例文）
ご依頼いただいた資料をご住所宛にお送りいたします。ご査収のほどよろしくお願い申し上げます
■ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます
相手に何かを考え、意思決定や判断をしてもらいたいときに使う丁寧な表現です。依頼する側の丁寧な姿勢や相手への敬意を示せます。企画の提案や業務の依頼、契約内容の確認といった場面で使うことが多いでしょう。
（例文）
新しいサービスの企画書を作成しました。のちほど〇〇様宛にお送りしますので、ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます
「よろしくお願い申し上げます」と似た表現
メールの場合、「よろしくお願い申し上げます」の表現が重なるのを避けるため、別の表現を使うこともあります。
「よろしくお願い申し上げます」と似た表現には、次のようなフレーズがあげられます。
- お願いしたく存じます（おねがいしたくぞんじます）
- ご検討いただけますと幸いです（ごけんとういただけますとさいわいです）
それぞれの意味や使い方をみていきましょう。
■お願いしたく存じます
「お願いしたく存じます」の「存じます」は「思う」の謙譲語であり、｢お願いしたいと思う｣をより丁寧にした敬語表現です。「思う」という表現にすることで、直接「お願い申し上げます」と伝えるよりも、｢申し訳ない」という気持ちを伝えられます。
（例文）
- お忙しいところ恐縮ではございますが、明日までのご対応をお願いしたく存じます
- お手数ですが、こちらの書類にもご署名をお願いしたく存じます
■ご検討いただけますと幸いです
「ご検討いただけますと幸いです」は、物事を依頼したり提案をしたりする際に、「考えてほしい」「承認してほしい」とお願いをするときに使う表現です。
「幸いです」は「〜していただけるとうれしい」というクッションをおいた表現で、直接的な表現よりも柔らかい印象を与えます。
- 新しいサービスに関する提案について、ご検討いただけますと幸いです
- 〇〇の改善案を作成しました、ご検討いただけますと幸いです
「よろしくお願い申し上げます」に対する返答は？
相手に「よろしくお願い申し上げます」といわれたとき、その意味によって返答は異なります。何かの依頼を受けたりお願い事をされたりして「よろしくお願い申し上げます」といわれた場合は、「承知いたしました」もしくは「かしこまりました」と返答するのが一般的です。より丁寧に返答したいときは、「かしこまりました」を使います。
挨拶の結びとして「よろしくお願い申し上げます」といわれたら、「こちらこそ、よろしくお願い申し上げます」と返答しておくとよいでしょう。
「よろしくお願い申し上げます」は正しい敬語
「よろしくお願い申し上げます」は、一般的に広く使われている敬語表現です。「よろしくお願いいたします」よりも丁寧に表現したい場面で使います。「どうぞ」や「今後とも」「何卒」などの言葉を添えることも多く、文脈により適切な表現を選んで使用してください。
「お願いしたく存じます」や「ご検討いただけますと幸いです」など類似表現もあるため、上手に使い分けるとよいでしょう。
構成／須田 望
