「上島珈琲店」を展開している「ユーシーシーフードサービスシステムズ株式会社(以下「ユーシーシーフードサービスシステムズ」)は、1月16日から2月中旬までの期間&店舗限定で、新メニュー「鰹出汁薫るミルク珈琲」を販売している。同社によると、日本料理の文化「出汁」と、日本独自の喫茶文化「ネルドリップコーヒー」を融合させた創作ドリンクメニューだという。「出汁ブームが話題となっている昨今、日本文化を大切にする上島珈琲店だからこそ、新年にふさわしい創作ドリンクメニューとして開発に挑戦し実現しました」(ユーシーシーフードサービスシステムズ)
販売期間は1月16日から2月中旬(なくなり次第終了)。販売店舗は上島珈琲店12店舗(都内6店舗、関西6店舗)。
鰹出汁と、ネルドリップコーヒーをミックスした新メニュー
「鰹出汁薫るミルク珈琲」(税込680円) 販売店舗は上島珈琲店12店舗(青山店、赤坂一ツ木通り店、千代田区二番町店、神楽坂店、麻布十番店、エミオ武蔵境店、京都四条烏丸店、河原町店、京都寺町店、京都嵯峨嵐山店、さんちか店、阪急三番街店)
筆者がこのメニューの存在を知ったのは、たまたま通りかかった上島珈琲店の立看板写真だった。鰹節と白い球形の具材、和風の器のイメージから「お雑煮的なフードメニューかな?」と思ったが、商品名を見ると「ミルク珈琲」なのである。あまりに斬新すぎてその時は挑戦する勇気が出ず、通り過ぎた。
その後も気になって、SNSで実際に飲んだ人のコメントをチェックしたが、「こんなもの飲めるかあ!」という絶対的な否定意見は見当たらない。しかし「素材同士の異種格闘技が繰り広げられるかと思いきや結果的には互いに手を取り合っている」「何となくクセになる味わい」「決して不味くはないけど、もう何飲んでるのかわからない味」などなど、とまどいの声は多かった。「不味くて飲めない」という声が見当たらないという事実に後押しされ、勇気を出して試してみることにした。
カウンターに響く「鰹、入りました」の声
最初に訪れたのは、自宅から一番近い「青山店」。だがカウンターのメニューに「鰹出汁薫るミルク珈琲」は見当たらず、聞けば「完売してしまいました」という(再入荷の可能性もあるとのこと)。油断していた。心のどこかで「そんなに注文する人はいないだろう」と侮っていた。さすが新しいトレンドに敏感な青山エリア。
そこで次に近い「赤坂一ツ木通り店」に電話をし、販売中であることを確認。感想の偏りを防ぐために、自家焙煎にも挑戦するディープなコーヒー愛好家である家人にも協力を依頼し、味を確かめてみることにした。
星野リゾートが運営する、地域密着型の新感覚ホテル「星野リゾートOMO赤坂」1階に併設されている「上島珈琲店 赤坂一ツ木通り店」

カウンターのメニュー表にはしっかり「鰹出汁薫るミルク珈琲」があって、ひと安心。2つ注文すると、カウンター内には「鰹ツー入りました!」「オッケー、鰹ツー!」とスタッフの声が飛び交う。なんと、筆者の後ろのお客も頼んでいて、スタッフが「鰹ワン、追加です!」とコール。しかし上島珈琲店カウンターでこんなに「鰹」が連呼されたことが今だかつてあっただろうか…。
鰹節や昆布、煮干しでとった上品なうま味の出汁に、ダブルネルドリップ方式で抽出したミルクコーヒーを合わせ、ホイップクリームと鰹節をトッピングした「鰹出汁薫るミルク珈琲」
器は、取っ手のない小ぶりの湯呑のような独特の形。このメニューのオリジナルで、長崎県波佐見町で生産される陶磁器、波佐見焼(はさみやき)のカップだという。たっぷりのクリームと、厚めに削った鰹節がトッピングされている。ミルクコーヒー部分だけを見るとおいしそうなのだが、鰹節との違和感にやはり、動揺せずにはいられない…。
和食の器をイメージさせる、器波佐見焼(はさみやき)のカップ
まず家人から、おそるおそる口に運んでみた。「ホイップクリームが思ったより甘めでおいしい」というのが最初の感想。「味はホイップクリームたっぷりのミルクコーヒーなのに、香りは鰹節。バグる」と早くも混乱している。
「始まりはミルクコーヒーだが、途中で急に出汁がやってくる」という感想をネットで見ていたので、筆者は少しずつ注意して味わった。確かに、コクのあるクリーミーなミルクコーヒーの味わいと鰹出汁の香りを同時に味わうのは初めての体験だが、その二つは思ったほどケンカをしていない。というか、コクのあるクリームが仲立ちをして、知らないうちに出汁の陣地に引き込まれている感じ。その証拠にクリームの味わいが薄まった後半は、出汁の味わいがより濃厚になり、最後は甘めのコクのある濃厚な鰹出汁を飲んでいるよう。
とまどいつつも、最後まで「よくわからないけど、おいしい」と思えて飲み切れたのは、あまりコーヒーが主張しないミルクコーヒーと合わせたのが勝因かもしれない。出汁には昆布も使用されているそうだが、以前、日本の海藻を使ったスイーツを取材した時、何人かのパティシエが「海藻類は乳製品と相性がいい」と語っていたのを思い出した(参考記事:「抹茶、わさびに続くスイーツの最新トレンド「海藻」に秘められた魅力」)。
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コーヒー豆の種類やブレンドによる味にはうるさい家人も、「面白い味がついた、おいしい出汁というか…新種のおいしいドリンクという感じ」という感想だった。
SNSで「ベーコンかと思った」という声があるほどボリューミーな、厚削りの鰹節を食べてフィニッシュ
これまでに、50種類以上のシーズナル限定ミルクコーヒーを発売
上島珈琲店はUCCグループの外食部門の事業として、2003年6月、東京・神田神保町に1号店をオープン。「より良い世界のために、コーヒーの力を解き放つ。」というグループのパーパスのもと、コーヒーの可能性をさらに広げるため、「フルーツ」、「スイーツ」、「野菜」、「スパイス」、「香り」をテーマに、50種類以上のシーズナル限定ミルクコーヒーを発売してきた。
これまでも、初摘みの宇治玉露をブレンドした「玉露ミルク珈琲」(2023年3月)、染井吉野の後に咲く関山桜のシロップを使用した「関山桜のミルク珈琲」(2024年2月)、長野県産のよもぎパウダーを使用した「よもぎのミルク珈琲」₍2024年3月)など、コーヒーと「和」の融合をテーマにした商品を開発している。今回の「鰹出汁薫るミルク珈琲」も、最初は唐突に感じられたが、この流れを見ると、“日本の伝統文化と日本の喫茶文化の融合”を追求していることが納得できた。
長野県産のよもぎパウダーを使用した「よもぎのミルク珈琲」₍2024年3月に期間限定販売)
「うまみ」は海外でブームだと言うが、実際に海外のさまざまなエリアでおでんなどを試食してもらったテレビ番組を見ると、出汁の香りに「魚臭い」と抵抗感を抱く人が一定数いるようだ。しかし濃厚なミルクコーヒーとミックスしたこの方法なら、出汁に慣れていない外国人にも抵抗なく受け入れられるのではないだろうか。ユーシーシーフードサービスシステムズによると、出汁に興味を持つ海外からの観光客に商品を試飲してもらったところ、購入に至ったケースもあるという。
「今回の商品の開発を通して、コーヒーの新たな可能性と、今までにないコーヒーの価値創造にチャレンジすることの大切さを改めて実感しました。これからもチャレンジを続けていきたい」(ユーシーシーフードサービスシステムズ)。
同社が2023年11月1日に発売した”「YOINED(ヨインド)」は、日本初の独自製法で、コーヒー豆を抽出することなく凍結粉砕し新鮮なまま香りも閉じ込めた“飲まないコーヒー”。コーヒー好きへの女性へのホワイトデーのプレゼントにもよさそうだ
取材・文/桑原恵美子
取材協力/ユーシーシーフードサービスシステムズ株式会社