国土交通省は1月16日、南海トラフ巨大地震の対策計画を改定し、建物崩壊や津波などによる直接死を減らす「命を守る」対策に加え、災害関連死も大幅に減らす「命をつなぐ」対策を重点的に進めると発表した。被災者が避難生活で体調を崩して亡くなる災害関連死をできる限り減らすため、支援物資の円滑な広域輸送体制の確保や自治体や民間事業者などとの連携を強化し、避難者の生活の質の向上を目指すとしている。
政府は昨年3月に「死者29万人超」などとする新たな被害想定を公表、7月に「防災対策推進基本計画」を改定した。国交省は今回、これらを受けて改定対策計画をまとめた。
国土交通省の南海トラフ巨大地震対策計画(改定版)の表紙(国土交通省提供)
赤い線内が南海トラフ巨大地震の想定震源域(地震調査研究推進本部・地震調査委員会提供)
対策計画は冒頭の章で「南海トラフ巨大地震による国家的な危機に備えるべく(中略)広域的見地や現地の現実感を重視しながら、国土交通省として総力を挙げて取り組むべきリアリティのある対策をまとめた」と強調した。
昨年3月に改定された被害想定では、最大で約29万8000人の直接死と、最大で約5万2000人の災害関連死が出るとされた。対策計画では、まず直接死を減らすために「命を守る」ことを目指して、▽海岸堤防の耐震化▽住宅・建物の耐震化の徹底▽ライフラインの強靱(きょうじん)化▽津波避難に関する情報伝達の周知・徹底などを挙げた。
また、災害関連死を減らして「命をつなぐ」ために、ライフラインの早期復旧体制の強化や、緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)の拡充、避難者の生活環境整備などを進めるとした。生活環境整備の具体例として、▽支援物資の広域輸送の促進▽関係機関と連携した飲料水の確保▽生活用水や緊急時のトイレ洗浄用水など衛生環境の確保▽被災者向け住宅の供給体制の整備などを列挙している。
南海トラフ巨大地震では大きな津波が各地を襲い、深刻な被害をもたらす恐れがある(2011年3月11日、岩手県釜石市内で撮影。国土交通省・東北地方整備局震災伝承館提供)
政府の南海トラフ巨大地震の被害想定では最大1230万人の避難者が出るとされる(2011年3月13日、仙台市内で撮影。国土交通省・東北地方整備局震災伝承館提供)
対策計画の大きな柱となる応急活動計画では、「避難支援」として▽津波避難に関わるハザードマップの整備促進▽避難路・津波到達時間の情報周知▽緊急地震速報・津波警報の高精度化などを挙げた。また、「被災状況等の把握」「被災者の救命・救助」としては、▽「統合災害情報システム(DiMAPS)」を活用した初動情報収集・共有体制の強化▽災害対策用ヘリ・人工衛星・レーザー測量技術の活用▽全国からのTEC-FORCEの活用▽災害対応力がある巡視船艇・航空機の整備などを列挙している。
政府の被害想定では、山間部や沿岸部の広い範囲で約2700の集落が孤立し、半島や離島も孤立する恐れがあるとされた。このため今回の対策計画では、対象となる自治体や現地の警察・消防、自衛隊といった関係機関と国交省が対策を検討するなど、事前に孤立集落への対応支援を進めることになった。
このほか、「複合災害対策」については、大雨・土砂災害、火山噴火、原子力災害など、災害ごとに求められる対策が大きく異なるため、災害の種類ごとにきめ細かい対策を充実させることを挙げている。
国土交通省の改定南海トラフ巨大地震対策計画の概要(国土交通省提供)
政府が昨年7月に改定した防災対策推進基本計画では、対策推進地域として6県の16市町村を追加指定し、723市町村に拡大した。最大29万8000人と想定される死者数を今後10年間で「8割減らす」との目標を設定したほか、最大想定235万棟の全壊・焼失棟数も改定前と同様に半減を目指している。
この基本計画では、高潮・津波対策としての海岸堤防などの整備率は2023年度の42%から30年度に50%に引き上げ、23年度に90%だった住宅耐震化率を35年度に「耐震性の不十分なものをおおむね解消させる」という目標を掲げた。