黒毛和牛の精液をホルモンと受容体量で評価 効率良い種雄牛選抜に 大阪公立大など

15 時 前 7
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 霜降りや肉付きの良い黒毛和牛種の生産に欠かせない種雄牛(種牛)の選抜において、精液のホルモンとその受容体の量から精子の奇形率が評価できることを大阪公立大学などのグループが明らかにした。これまで目視に頼っていた精液の検査では見つからなかった異常を見いだす可能性もあり、効率の良い種雄牛の選抜手法や生産性向上につながることが期待されるという。

 黒毛和牛は、霜降りや肉付きのよい遺伝子をもつ選ばれた雄牛が種雄牛となり精液を提供し、人工授精や受精卵移植で繁殖する。雄牛は生後1年ほどで性成熟して精液採取が可能になる。この採取した精液中の精子を使えば受精卵ができて雌牛が妊娠できるのかを評価する方法として、現在は主に顕微鏡などで精子の運動や数、形を目視で確認している。

正常な形態のウシの精子(上)と頭部が洋梨のような形になった異常な形態のウシ精子(神戸大学の原山洋教授提供)正常な形態のウシの精子(上)と頭部が洋梨のような形になった異常な形態のウシ精子(神戸大学の原山洋教授提供)

 大阪公立大学大学院獣医学研究科の川手憲俊教授(獣医繁殖学)によると、この簡便な目視による検査で9割以上の精子が運動していることや、精子の丸い頭部や尻尾のような尾部などにみられる奇形がおよそ2割より少なく収まっていることを確認した精液で繁殖を試みる。

 ただ、精子の運動や数が問題ないと判断できた精液を使っても、雌牛の妊娠に至らない事例があった。妊娠率が低いことは生産性の低下に直結し、除外すべき種牛を不必要に飼育するコストもかかるため、できるだけ早期に精子の奇形率が高いなど生殖能力が低いと判断できる雄牛を見つける必要がある。

 川手教授は、精子の異常を見分ける指標として精巣由来のインスリンに似た構造を持つホルモン「INSL3」と、精子にあるホルモン受容体「RXFP2」に着目。黒毛和牛種の1歳雄牛21頭に44回射精させて採取した精液を、頭部や尾部の形状が正常である割合の程度に応じて、高率(奇形が20%未満、精液数23個)、中率(同20%以上35%未満、同10個)、低率(同35%以上、同11個)に分けてホルモンINSL3と受容体RXFP2を測定した。

 すると、精子の奇形が多い低率においてINSL3は高率・中率より高い濃度を示した一方、受容体のRXFP2は濃度が低かった。ホルモンであるINSL3は受容体のRXFP2を介して精子中に取りこまれてシグナル伝達をし、精子が受精する能力を得るとされる。受容体が少ないと精液中のINSL3が精子に取り込まれず精液中にとどまるため濃度が高まるとみられる。精子の奇形率が低い高率ではINSL3の濃度は低く、RXFP2の濃度が高くなる。奇形率とINSL3には相関関係があることがわかった。

正常な形態のウシ精子が多い(High)と、精子の頭部や頭部と尾部をつなぐ頸部でホルモン受容体RXFP2が黄緑に光るが、奇形が多い(Low)と精子にRXFP2が少ない(大阪公立大学の川手憲俊教授提供)正常な形態のウシ精子が多い(High)と、精子の頭部や頭部と尾部をつなぐ頸部でホルモン受容体RXFP2が黄緑に光るが、奇形が多い(Low)と精子にRXFP2が少ない(大阪公立大学の川手憲俊教授提供)

 川手教授によると、実際に種雄牛の選抜に用いる検査にするには、奇形率ではなく妊娠率とホルモン濃度の相関関係を確認するとともに、凍結精液でもおなじ関係が得られるか調べる必要がある。現行の検査に加え、ホルモンの量的な検査ができるようになれば、これまで見過ごされていた生殖能力に難のある雄牛を早期に発見できる可能性がある。

 RXFP2とINSL3の濃度は異常精液を見分ける新しいバイオマーカーとなることが見込まれ、黒毛和牛のみならず肉用牛や乳用牛においても種雄牛選抜法の改善や生産性向上につながることが期待できるという。

黒毛和牛種の雄ウシでの正常な精液と異常な精液におけるホルモンINSL3とその受容体RXFP2の関係(大阪公立大学の川手憲俊教授提供)黒毛和牛種の雄ウシでの正常な精液と異常な精液におけるホルモンINSL3とその受容体RXFP2の関係(大阪公立大学の川手憲俊教授提供)

 研究は神戸大学や兵庫県立北部農業技術センターと共同で行い、2024年12月26日に日本繁殖生物学会誌「ジャーナル オブ リプロダクション アンド デベロップメント」電子版に掲載された。

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