
賃上げで収入は増えたが、物価上昇で支出も増えており、通帳を見ても気分は晴れず。そう感じている人も少なくないだろう(写真:maruco/PIXTA)
現在の日本の賃上げは、生産性の上昇や利益の圧縮によるのではなく、賃上げ分を販売価格に転嫁することによって行われている。実質賃金の伸び率がマイナスになるのは、そのためだ。多くの労働者が賃上げの恩恵を享受できるようになるには、この過程から脱出する必要がある――。野口悠紀雄氏による連載第140回。
実質賃金は3年連続のマイナス
2月5日に厚生労働省が発表した「毎月勤労統計調査」によると、2024年の実質賃金は前年比で▲2.9%となった。これで3年連続のマイナスだ。
実質賃金が上昇しない原因は、名目賃金引き上げのメカニズムにある。生産性の向上ではなく、消費者物価への転嫁で賃上げが行われているからだ。
賃上げ動向は2極化が進んでいるといわれる。多くの中小企業は人手不足を解消するために大幅な賃上げをせざるをえないが、実際の賃上げ率は低いという。
これはデータにも表れている。前出の2024年の実質賃金の前年比は「従業員5人以上の事業所」のもの。一方、「従業員30人以上の事業所」では、2024年の名目賃金は+3.3%であり、物価上昇率を上回った。したがって、実質賃金は+0.1%で、2年ぶりのプラスとなった。
また、連合(日本労働組合総連合会)の集計によると、ベースアップに定期昇給を合わせた賃上げ率の加重平均は2024年には5.10%だったが、組合員数300人未満の企業に限ると4.45%だった。
現在の日本の賃上げがどのようなメカニズムで行われており、いかなる問題を含んでいるのか。