笠雲、つるし雲、旗雲――富士山の周りには、多彩な面白い形の雲ができることが知られている。それらができる条件を明らかにしたと、筑波大学などの研究グループが発表した。山を取り囲むカメラで長期に観察し、観測データと合わせて詳しく調べた。ほぼ経験的に語られるにとどまっていたこれらの雲の性質を、初めて科学的に検証したという。
日本一の霊峰を飾るこうした雲は見応えがあり、親しまれている。それぞれの形ができる大まかな仕組みは考えられたものの、十分に解明されてこなかった。そこで研究グループは2019年1月~21年12月の3年間、富士山を囲む実質7台のライブカメラで雲を観察。また気象庁の観測データを基に、富士山の風上側の700ヘクトパスカルの高度、つまり概ね上空3キロの風向と風速を調べた。高度別の風速なども検証した。
その結果、それぞれの雲で次の特徴を見いだした。(1)山が笠を被ったように見える「笠雲」は、主に暖かい季節の朝、強めの西南西の風が吹き、山頂付近か、より高い所に湿った空気の層がある時に見られる。
富士山にできた笠雲。(左)接地笠(右)離れ笠(筑波大学、情報通信研究機構提供)
(2)空からつるされたように見える「つるし雲」は南西の風で、湿った空気の層がやや高い場所にあり、風速の高度差が笠雲の時より小さめの時に生じる傾向がある。できる仕組みは2説あったが、風が山を越えて吹く時に起きる大気の上下振動「山岳波」が働いていることが分かった。夏に西南西の風が吹き、風速の高度差が小さいために生じた山岳波が、湿った空気を持ち上げて雲ができる。従来のもう一つの説に関わる、風が山を通り過ぎる際に左右の二手に分かれ、その後に再び合流する効果は小さいとみられる。
つるし雲。(左)楕円型(右)翼型(筑波大学、情報通信研究機構提供)
(3)旗がなびいているように見える「旗雲」は、寒い季節の、乾燥した北西の風が吹く日中に多くできる。風は山頂より低い所で弱く、山頂付近で急に強まり、上空で一層強くなっている。つるし雲とは逆に、山岳波が起きにくい条件だ。多くは、冬に西北西の風が山を通り過ぎて合流する際に発生する上昇気流が、湿った空気を持ち上げてできると考えられる。
旗雲。(左)馬のたてがみ型(右)積雲列型(筑波大学、情報通信研究機構提供)
笠雲では山頂に接する「接地笠」、つるし雲は「楕円(だえん)型」、旗雲は「馬のたてがみ型」が、それぞれ主要なタイプであることも分かった。
富士山に限らず、岩木山(青森県)や桜島(鹿児島県)といった、孤立してそびえる円錐(えんすい)形の山でもこうした雲ができることがあるという。
風などの条件の微妙な違いが、多彩な雲を作り分けていることが興味深い。研究グループの筑波大学計算科学研究センターの日下博幸教授(気象学)は「これは役に立つかどうかより、面白いからやっている研究だ。さらに詳しく検証したい。風向や風速、湿度の高度分布、大気の境界層の構造といった主要因の、具体的な役割を調べたく、数値シミュレーションを進めている」と話している。
研究グループは筑波大学、情報通信研究機構などで構成。成果は英国王立気象学会の専門誌「ウェザー」電子版に10月30日に掲載され、筑波大学が先月25日に発表した。