捕食魚のエラから脱出するニホンウナギの稚魚シラスウナギは、河口付近での浮遊生活から移行し、河川・河口域に着底して水底に住み始める頃から、その特異な捕食回避能力を獲得している可能性があることを長崎大学のグループが明らかにした。絶滅危惧種であるニホンウナギの効率的な放流策を探る知見となる。
ニホンウナギの稚魚が捕食魚であるドンコのエラの隙間を通って脱出する様子(長崎大学の長谷川悠波助教提供)
長崎大学の長谷川悠波助教(行動生態学)は、ニホンウナギの捕食回避行動を研究していた大学4年生のとき、捕食魚ドンコに食べられた稚魚がエラの隙間を通って尾からドンコの口外に脱出することを発見し、2021年12月に発表した。24年には、丸呑みされた稚魚がドンコの消化管を食道、エラへと遡り、エラの隙間から脱出していることを造影剤のバリウムを用いたX線映像撮影で明らかにした。
ニホンウナギの稚魚が捕食魚ドンコに丸呑みされて、エラの隙間から脱出完了するまでの一連の流れ(長崎大学の長谷川悠波助教提供)
ウナギは外洋で生まれた後、海水中に浮遊して過ごし日本をはじめとする東南アジアの沿岸域に到達するころにシラスウナギと呼ばれる稚魚にまで発達する。河川・河口近くになると、浮遊生活から水底に住む着底生活へと移行する。
研究グループではこうした発達に伴う行動や形態の変化が捕食魚からの脱出に関連しているのではないかと考え、2021年から23年にかけて観察実験を行った。
シラスウナギの発達は体サイズでは測れないため、飼育下のシラスウナギを体の各部位への色素沈着などにより、Ⅵ(A0、A1、A2、A3、A4)、クロコ、黄ウナギの7段階に分け、それぞれを捕食魚であるドンコと同居させて、食べられる回数や脱出する回数を数えた。
ニホンウナギの稚魚であるシラスウナギの発達段階は、体の各部位への色素沈着などをもとに、Ⅵ(A0、A1、A2、A3、A4)、クロコ、黄ウナギの7つに分けた(長崎大学の長谷川悠波助教提供)
発達段階に応じてドンコに食べられるか調べた結果、クロコより大きくなって黄ウナギになると、そもそもドンコに食べられる前にほとんど逃げることができていた。ⅥA0では食べられた稚魚3匹、ⅥA1では14匹のすべてが脱出できなかった。しかし、ⅥA2では10匹中3匹、ⅥA3では18匹中3匹、ⅥA4では35匹中6匹が脱出できた。クロコでは144匹中47匹、およそ3分の1の確率で稚魚が脱出できた。
ウナギ稚魚の脱出成功率の発達変化。括弧内の数字は捕食魚ドンコに丸呑みされて捕まった回数を示す(長崎大学の長谷川悠波助教提供)
生息場所と発達段階の関係について調べた別の研究では、水面の表層で採取したシラスウナギはⅥA2程度までの発達段階にとどまる一方で、水底で採取したシラスウナギはⅥA3以上の発達段階を示していた。捕食魚ドンコから脱出が可能になるⅥA2以降という発達段階は、ウナギ稚魚が河川・河口域に着底するタイミングと一致しており、長谷川助教は「ウナギ稚魚は着底期の発達に伴って捕食魚のエラの隙間からの脱出に必要な能力・形態を獲得していることが示唆された」としている。
絶滅危惧種であるニホンウナギについては、資源回復策のひとつとして、全国的に飼育魚の放流が行われる。早い発達段階の方が放流後に水域に適応しやすい一方、早い段階すぎると捕食者に食べられたときに脱出できないことが今回の研究で分かった。研究の結果は、どんな発達段階の個体を放流すれば生き残りやすく資源回復につながるかを考える知見となる。
研究は、水産研究・教育機構と行い、海洋生態学の学術誌「マリン エコロジー プログレス シリーズ」電子版に1月16日掲載された。