万引きを模した状況を作り出し、心理的にどのような対策が万引き防止に一番効果的か実験したところ、「店員のあいさつ」であることを香川大学の研究グループが明らかにした。警察庁の統計では2022年以降、万引きは増加傾向にある上に、検挙率は約7割と頭打ちで、社会的に大きな課題となっている。「窃盗犯罪防止のためには、店側が『いらっしゃいませ』や『こんにちは』など声かけのホスピタリティを持ち、サービスを良くしていくことだ」としている。
万引きは「死角」で起こり、高額な商品が持ち去られることが多いという。最近は米袋を持ち去る被害も多い
香川大学教育学部の大久保智生教授(犯罪心理学・教育心理学)は、実際の店舗の協力を得て、擬似的な万引き状況を作って実験を行った。参加者の学生46人には「誰にも見つからないように、物を隠してもらう実験」と伝え、大久保教授が前もって購入して店頭に置いていた電池を、事前に渡したバッグ内に入れる行為を6回繰り返してもらった。
その際、棚の陰から出てきた店員が「いらっしゃいませ」などとあいさつして声をかけたり、ピカピカと光が発生する装置、不安定な音やリラックスできる音が流れるスピーカー、「防犯カメラピント調整中」と書いたポスターや目のイラストが描かれたポスターが参加者の視覚や聴覚に入ったりするようにして、これらの各防犯対策をどのように思ったか、アンケートを取った。
店員のあいさつで、電池をバッグに入れることを躊躇した人が最も多かった(香川大学提供)
その結果、「店員のあいさつ」で電池をバッグに入れるのに「躊躇した」と答えたのが36人と、他の対策を大きく上回った。一方で、「防犯カメラピント調整中」のポスターで躊躇したのは1人しかいなかった。電池をバッグに入れる際の心理的な状況を尋ねたところ、やはり「店員のあいさつ」が不安や混乱を有意に引き起こしていた。
ポスターや光、音による注意喚起は、店員のあいさつに比べると混乱や緊張といった心理状況にならなかった(香川大学提供)
大久保教授によると、万引きは発見するのが店員や私服警備員といったいわゆる「万引きGメン」のため、警察の犯罪対策が最も遅れている分野の一つだという。そして、窃盗を契機に他の犯罪を起こす人も多いため、万引き対策は治安の維持のために非常に大切だとしている。
近年、セルフレジやICタグを読み取るような、店員がいない会計システムを採り入れる店も多い。だが、大久保教授による他の研究では「テクノロジーが進歩しても万引きは防げていない。万引きする人は様々な手法でこれらの技術をかいくぐっている。AIを駆使しても現在のところ、それだけで万引きは防げないということが分かっている」という。
万引きは店の全ての場所で起こるわけではなく、「ホットスポット」と呼ばれる人の目がない死角で起こるため、「ホットスポットに店員を配置したり、人手不足なら、動くロボットを配置したりするのが効果的だろう。もしくは、人の目をつくるために必ず客がホットスポットを通らないといけないような通路にするといい」と指南する。
今回の研究で「見られている」感覚が万引きを抑止することが分かったため、大久保教授は「例えば、セルフレジでもカゴを移動させるのは店員が行うなどして、声かけの機会を増やすホスピタリティが店側にとって有効な対策」とした。今後は、ロボットによる声かけが抑制に効果的か調べるという。
研究は株式会社IC(東京都港区)、東京海上日動火災保険、香川県警の協力を得て行った。成果は2026年3月に筑波大学で開かれる日本環境心理学会で発表する。