高温で焼いてできる硬い無機酸化物の結晶骨格を、比較的低温で起きる「トポケミカル反応」を用いて、これまでになく大きく再構成することに京都大学などのグループが成功した。モリブデンとタンタルの酸化物をアンモニアで処理して同反応を起こした。できた酸窒化物には元の酸化物にはなかった導電性があるのを確認。新たな量子素子などへの応用が期待できるという。
青丸で示したモリブデンを中心に酸素がついた四面体構造が並ぶ2層(左)が、トポケミカル反応で八面体が並ぶ1層へ変化した。結晶骨格自体の再構成といえる(京都大学の陰山洋教授提供)
トポケミカル反応は結晶骨格を保ったまま、特定のイオンを選択的に出し入れする手法。セラミックスのようにセ氏1000度~2000度の高温で合成する無機結晶材料をもとに、同反応を使って新しい材料づくりをする研究が進む。多面体がそれぞれ平面になるような1対1の変化は見つかっているが、金属サイトの数や配置を変えるような結晶骨格の再構成はできないと考えられていた。
京都大学大学院工学研究科の陰山洋教授(固体化学)らは、層状構造をもつモリブデンとタンタルの酸化物に注目。四面体構造が2つある特徴を用いて窒化できないか研究していたところ、アンモニアガス中にヘキサカルボニルモリブデン[Mo(CO)6]を加えて500度に加熱すると、2層の四面体構造が押しつぶされたように1層の八面体構造になった。電子顕微鏡で確認すると層の距離が2割ほど短くなっていた。
層状構造をもつモリブデンとタンタルの酸化物をアンモニアガス中にMo(CO)6を加えて500度に加熱する前(左)と後の電子顕微鏡写真。青で示したモリブデンが2層から1層に変化している(京都大学の陰山洋教授提供)
2層が1層になった八面体の配置を調べると、竹籠の編み目(籠目)で見られる六角形と三角形が規則的に並んだ結晶格子で、「カゴメ格子」という構造をとっていた。カゴメ格子は通常の金属とは異なる電気的・磁気的性質が現れる可能性があることから、新しい機能性材料として期待されている。生成した酸窒化物を調べても導電性が確認できた。
モリブデンが中心にある八面体の配置は「カゴメ格子」になっていた(京都大学の陰山洋教授提供)
陰山教授は「固体材料はかつて考えられていたよりもはるかに柔軟性が高い。セラミックスをはじめとした酸化物を作り出す人が思っているより劇的な構造変化をもたらすトポケミカル反応の発見だ」と話す。次世代の量子素子や新機能材料の設計に向けた基盤技術になる可能性を秘めているという。
研究は、日本学術振興会や科学技術振興機構(JST)などの支援を受けて、仏・ボルドー大学、一般財団法人ファインセラミックスセンター、東北大学、中国・桂林理工大学と共同で行い、7月24日付けでアメリカ化学会の国際学術誌「JACS」のオンライン版に掲載された。