大阪・関西万博閉幕 これからも脈々と未来社会のデザインを描くために

Science Portal 4 時 前
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 大阪・関西万博が184日間の会期を終えて13日、閉幕した。廃棄物の埋め立て人工島という立地から、メタンガスの事故リスクやアクセスの悪さなど負のイメージも先行したが、大きな事故はなく、多くの人がパビリオンに並び、ミャクミャクグッズを買い求めた。期間中の一般入場者は約2529万人(12日までの速報値)で、前回の国内万博である2005年の愛知万博(愛・地球博)より約324万人多い。運営費のみで見ると230億~280億円の黒字となる見通し。同日の閉会式で石破茂首相は「AI、ヘルスケア、モビリティ、ロボットといった新たなテクノロジーが実践された。分断よりも連帯、対立よりも寛容を大切にし、多くの方にご満足頂けた」と述べた。

国民の英知 集まるネット

 万博開幕式で、石破首相は「人類共通の課題をいかに克服するか、内外の英知を集める」と語っていた。会期中は、万博体験記の「英知」がSNS上で共有されたといえるだろう。テーマパーク巡りのように「回りやすさ」や「ショップの充実度」「混雑具合」といった体験記があふれた。酷暑の中で会場を回るためのうちわ型の「非公式マップ」や、お一人様で万博会場を巡る「わんぱく」なる言葉も誕生し、SNSに公式サイトを超える情報量が集まった。各国のパビリオンも、インターネット上でその国に造詣が深い人々の解説を読むことができ、展示会場でなくとも楽しむことができた。

会場には様々な工夫を凝らした建物が現れた。大屋根リング(写真左)の上から眺めているだけでも楽しめた

 他方で、デジタル格差とも言われる中、これらの情報になかなかたどり着けない人や、様々な理由でインターネットを使いこなすことが難しい人が置き去りになったという側面もある。万博協会は「一人ひとりが輝くことのできる世界の模式図を描く」理念を掲げていたが、入場予約システムの煩雑さなどからしても、この理念は絵に描いた餅ではなかったか。

 もちろん、「これからの社会はデジタル」という主張も理解できる。現に「デジタル万博」や「バーチャル万博」は公式サイトにも表示されていた。ただ、デジタルを使いこなすためには相応の知識や経験値、端末類が必要である。日頃から使いこなしている人は、「使えない」人々がいることに気が付きにくく、ともすれば、現代社会は「使いこなす」人々がデザインしがちだ。「未来社会のデザイン」とは、デジタル・ネイティブだけのものではないだろう。

サステナブルな未来 描けたか

 会場では、様々なリサイクル製品を目にすることができた。例えば、清水建設が3Dプリンターで作ったホタテの貝殻を使ったベンチ。通常、廃棄されるホタテの貝殻を使い、コンクリート製ベンチに比べて排出される二酸化炭素の量を削減できるように工夫した。

ホタテの貝殻を再利用して作ったベンチ。コンクリートベンチに比べ、排出される二酸化炭素量が少なくて済む

 このほかにも、ゴミの分別や提供される食事のカトラリーを木製にするなど、脱プラスチックや持続可能な社会に向けた取り組みが行われた。「BLUE OCEAN DOME」のパビリオンでは、建材に紙筒など、通常の材料よりも環境負荷が低いものを用いていた。海洋プラスチックを始めとしたごみを出さないようにするための試みを間近に見て、パビリオンが発するメッセージを受け止めることができた。

BLUE OCEAN DOMEパビリオンの屋根。再生紙の紙筒を組み合わせて強度を保つ。通常の建材よりも環境に配慮されている

 そんな企業の取り組みがあった一方で、各パビリオンで配られるプレゼントやノベルティは環境に配慮されているとは言い難かった。中には金属製のバッジなどリサイクルに不向きなものもあり、「いのちを育む」理念には反していたように思う。環境に対する考え方は各国で異なる。しかし、日本が開催国としての責任を果たそうとするならば、日本館の展示のように、より廃棄物を出さず、ものを大切にする取り組みがもっと広まってもよかったと感じている。

手が届く「海外」 諸外国を知り、分かり合う契機に

 諸外国のパビリオンでは、車いすやベビーカーの優先入場が設けられた。誰もが暮らしやすい世の中にすることはバリアフリー社会においては必須であり、他国のパビリオンの姿勢からは学びがあった。現在、首都圏や大都市の公共施設などではバリアフリーが浸透しつつあるが、まだまだ外出にはハードルが高い社会だ。今回の万博でデモが行われた空飛ぶクルマなどが実用化し、移動するための手段が個別化されて、おのおののハンディキャップに対応することができるようになれば、杞憂に終わるのかもしれないが……。

今回の万博で注目を集めた出展の一つ「空飛ぶクルマ ステーション」

 今回の万博は「まるで海外旅行のよう」との声も聞かれた。通期パスを使い、全パビリオン制覇のために足繁く通った人もいる。前回万博が開かれた2005年は、1ドル約105~111円。だが、今回の万博期間中は同143~150円と、20年前より円安が進み、外務省などのデータによると、パスポートを持っている人は国民の約17%にとどまる。

このように海外旅行が手に届きにくくなった状況の中でも、異国文化を感じ、食事を楽しみたいという来場者のニーズに万博は合致した。グローバルな長距離移動を減らすことは、温室効果ガスの削減につながる。万博で「海外」を満喫することは、期せずとも、環境に配慮することになるともいえるのだ。

インターネットでは「自国ファースト」の意見が飛び交うが、他国との協調関係なしには我が国は生き残れない。国名しか知らなかった国について学び、各国の新たな一面を理解することにおいて、このような社会だからこそ、万博を開催した意味があるのだろう。

 大屋根リングの理念「多様でありながら、ひとつ」――各自の楽しみ方で、ひとつのイベントに熱狂した半年間が惜しまれつつ、終わった。筆者は4人の友人たちと一緒に「EARTH MART」パビリオンを訪れた際にもらった「25年後の梅干しがもらえる万博漬け引換券」の交換が、今から楽しみである。

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