国連環境計画(UNEP)は11月4日、2024年の世界の温室効果ガス排出量が前年より2.3%増え、二酸化炭素(CO2)換算で過去最多の577億トンに達したとする「目標未達―排出ギャップ報告書2025」を発表した。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の下で各国が提出した温室効果ガス削減目標(NDC)を達成しても、産業革命前からの気温上昇は今世紀末までに2.3~2.5度、対策を強化しなければ今世紀中に最大2.8度になると指摘。「地球は深刻な気候リスクと損害の拡大に向かっている」と、各国に一層の排出削減策を求めた。
UNEPの「排出ギャップ報告書2025」の表紙(UNEP提供)
2024年の排出量が最も多かったのは中国で156億トン。次いで米国が59億トン、インド44億トン、欧州連合(EU)32億トン、ロシア26億トンの順だった。アフリカ連合(AU)を除いた主要20カ国・地域(G20)の排出量は全体の77%を占めたが、35年までの新たな排出削減目標を掲げた国はわずか7カ国にとどまる。報告書は「G20諸国の行動とリーダーシップが鍵を握る」と指摘した。
温室効果ガス排出量の多い5カ国とEUの2024年の排出量(CO2換算、左)と1990年からの排出量増減(右)をそれぞれ示すグラフ(UNEP提供)
パリ協定は、産業革命前からの世界の平均気温の上昇幅について、「複数の10年単位で見て1.5度に抑えること」を目指している。報告書によると、この「1.5度目標」を達成するためには、排出量を2030年までに19年比で40%、35年までに同年比55%それぞれ削減する必要がある。しかし、各国がNDC達成に向けた対策を実施しても、35年の排出量は19年比で約15%の削減にとどまる見通しで、今後10年以内に「1.5度目標」を超える可能性が大きいという。
こうした見通しに対し、2035年までの新たなNDCを提出した国は60カ国で、パリ協定締約国の3分の1未満。気候変動に大きな影響を与えているとされる温暖化を食い止めようとの積極的な機運が十分でないことをうかがわせている。
UNEPのアンダーセン事務局長は「各国の排出量削減計画に一定の進展があるものの、速度が足りない。今こそ、かつてない規模の排出削減を、極めて限られた時間内に達成しなければならない」と強調した。また国連のグテーレス事務総長は「(報告書で)科学者は2030年代初頭にも1.5度上昇は一時的に避けられないと警告しているが、1.5度目標は依然、私たちにとって北極星であり、まだ到達可能だ。問題は私たちが本気で(大幅削減という)野心を高められるかどうかだ」などとする声明を発表した。
UNEPのアンダーセン事務局長(UNEP提供)
日本は2030年度に13年度比で46%削減、35年度に60%削減という目標を掲げている。UNEPは報告書で「日本の現行対策で目標に近づくものの、わずかに届かない」と予測している。環境省によると、日本の24年の排出量は未公表だが23年度で11億トンという。
UNEPの報告書は、国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)に関連して6日と7日にブラジル・ベレンで首脳級会合が開かれるのを前に、各国に積極的な削減対策を求める形で公表された。10日に始まったCOP30には約140カ国・地域が参加し、2035年までの新たなNDCや発展途上国向け資金、CO2を吸収する森林保護などについて21日までの予定で討議している。
世界の温室効果ガス排出量の増加を示すグラフ(UNEP提供)
ブラジル・ベレンで11月10日から実質討議が始まったCOP30の議長席の様子(国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局提供)