ハスの葉のように水をはじき汚れを落とす 構造色塗料開発 千葉大

Science Portal 1 月 前
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 ハスの葉のように水をはじき、汚れも自然に落とす新しい構造色塗料の開発に、千葉大学などの研究グループが成功した。メラニン粒子に疎水性の分子をまとわせることで、有機溶媒の中でも安定して粒子が分散。この溶液を筆で壁に塗ると有機溶媒が速やかに揮発し、光の反射により構造色が発現する。今後は耐久性などを上げて、単色で色あせしない次世代塗料材料としての応用を目指すという。

 構造色は、そのもの自体には色がないのに、光によって発色し、いつまでも色が保持されているように見える。粒子が規則正しく配列したコロイド結晶では、様々な角度から眺めると色にグラデーションが生じているように感じられる。

 千葉大学大学院工学研究院の桑折道済(こおり みちなり)教授(高分子化学・コロイド化学)と前島結衣同大学院生らの研究グループは、先行研究でクジャクの羽の構造色に着目し、光があたるとキラキラと色が変わって見えるメラニン由来の構造色インクを開発していた。

 構造色はクジャクの羽の他、玉虫、CD、シャボン玉の表面などにも見られる。メラニンがヒトの皮フや髪の毛に存在するという安全性に照らし、構造色を用いて壁の塗料にも応用できないかと研究を続けてきた。

 今回、メラニン粒子と疎水性分子を混合して、メラニン粒子の周囲を取り囲むように疎水性分子を付けた、直径200~300ナノメートル(ナノは10億分の1)の粒子を作った。粒径を変えることで可視光の反射波長が変わり、色が変わって見える。壁や内装に使えるように粒子の配列規則性を低下させることでグラデーションを抑え、それぞれ角度を変えても同じ色に見える薄い3色分の単色構造色塗料を開発した。

今回開発に成功した構造色塗料。それぞれ角度を変えても同じ色に見える今回開発に成功した構造色塗料。それぞれ角度を変えても同じ色に見える

 当初は安全な水を溶媒にする塗料を考えていたが、水の揮発には時間がかかることや、塗装表面の均一性が低いこと、内装の場合は水に濡れてはいけない仕様のものがあることから、疎水性にしてメラニン粒子が有機溶媒に分散する方法を採った。この手法によって、塗るとすぐに発色する構造色塗料が完成した。

 物性を詳しく調べると、メラニン粒子の表面が炭素数18のアルキル基「オクタデシル基」のとき、フッ素化合物に匹敵するほどの高い疎水性を持つことが確認できた。この塗料を塗った面を拡大して観察すると、凹凸ができて空気を含ませており、水滴を垂らしてもなじまず転がるように水が落ちていた。これにより、ほこりや泥が面に付いても雨などで流せて、結果的に汚れをはじくことができる。このことを植物のハスの葉に例えて「ロータス効果」という。

ロータス効果によって、滴下した水滴がはじかれる様子。水が玉のようにとどまっていることが分かるロータス効果によって、滴下した水滴がはじかれる様子。水が玉のようにとどまっていることが分かる

 桑折教授は「フラスコで作るのと、工業製品にするのではスケールが変わってくるので、コストを含めてどのような形であれば製品化につながるのか、研究を続けたい」としている。今後は塗料そのものの強度や耐久性、大量生産の課題について研究を続けるという。

 研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業と、物質・材料研究機構(NIMS)連携拠点推進制度の助成を受けて行われた。成果は2024年12月18日、独科学誌「マクロモレキュラー リアクション エンジニアリング」に掲載され、25年1月9日に千葉大学が発表した。

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