スパコン「富岳」後継機開発スタート 2030年頃、世界最高水準へ 理研

Science Portal 4 週 前
Facebook Icon Twitter Icon

 理化学研究所は、運用中のスーパーコンピューター「富岳」の後継機の開発を開始した。開発上のコードネームは「富岳NEXT(ネクスト)」で、2030年頃に稼働する計画。シミュレーションでの実効性能を5~10倍に高めるほか、活用が急速に進むAI(人工知能)に必要な性能で世界最高水準を目指す。増大する計算資源の需要に応え、科学研究を加速する「AI for Science(フォー・サイエンス)」への活用などを通じ、わが国の科学技術・イノベーションが世界を先導するための計算基盤を目指す。

富岳(理化学研究所提供)富岳(理化学研究所提供)

 昨年6月、文部科学省の専門委員会がまとめた「次世代計算基盤に関する報告書」に、富岳や先代「京」の開発・運用実績を持つ理研を開発主体とすることが適切と明記。求められる性能や機能として(1)演算を加速するGPU(画像処理装置)などの導入、(2)電力性能の大幅な向上、(3)シミュレーションで富岳の5~10倍の実効性能の達成、(4)AIの学習や推論に必要となる性能で、世界最高水準の実効性能――などを盛り込んだ。

 こうした方針に基づき、理研が富岳NEXTの開発を始めると先月22日、発表した。来年度開始の計画だったが、今年度の総合経済対策と補正予算により前倒しした。開発費は未定で、今後、共同で基本設計を行う企業を選定する。4月には理研計算科学研究センター(神戸市)に開発の中核組織「次世代計算基盤開発部門」を設置し、国内外の研究機関と連携していく。

 運用中の富岳は、理研と富士通が共同開発した。同センターで2012年9月~19年8月に運用された京の跡に設置され、2020年4月からの試験利用を経て21年3月に本格稼働した。文科省「成果創出加速プログラム」のほか、一般公募や国の重要課題での利用などが進んでいる。スパコン計算速度の世界ランキング「TOP500」で20年6月、日本勢として8年半ぶりの首位となり、21年11月まで4連覇した。昨年11月のランキングでは6位に後退したものの、産業利用とグラフ解析の2つの指標で10期連続の1位を達成し、実用性で強さを示している。

 富岳NEXTはあらゆる分野の産学官の利用者が活用できるよう、また従来のアプリケーションが継続的に利用できるよう開発する。量子力学に基づき計算する「量子コンピューター」と、従来型のスパコンを連携させる取り組みも進める。開発にあたり、国産技術を活用して産業競争力の強化や人材育成につなげると共に、必要に応じて国際連携も行う。

 京の運用終了から富岳の運用開始まで、国内の計算資源が減少する“端境期”が約1年半に及んだ。この間、大学などの研究機関のスパコンを利用し需要を賄った。スパコンの利用が進み富岳の役割が高まっている今回は、移行時に端境期を極力生じないよう、設置場所を含めた対策を検討する。

 次世代計算基盤開発部門長に就任する慶応大学理工学部の近藤正章教授(理研計算科学研究センター次世代高性能アーキテクチャ研究チームリーダー)は「(TOP500など)特定の指標で1位を目指すことは念頭にない。アプリケーションファーストであり、科学的成果が出せるシステムを作りたいとの思いが一番強い。使いやすく性能が出やすいもの、特にAIとシミュレーションが融合しやすいものにしたい」と話している。

もっと詳しく