昨年末に発見された小惑星が、2%あまりの確率で2032年末に地球に衝突するリスクがあるとして注目されている。宇宙機関などは「可能性は非常に低い」とするものの、まだ軌道を精査できておらず、完全に否定できてはいない。米欧とカナダが共同開発した「ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡」が観測するなどして軌道計算の精度を高め、リスクを見極めていく。
地球(水色)などの惑星と新たに見つかった小惑星「2024YR4」(白)の公転軌道、それぞれの今月15日時点の位置(白い点)=NASA提供
国際天文学連合や欧州宇宙機関(ESA)の資料によると、この小惑星「2024YR4」は昨年12月27日、小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS、アトラス)の南米チリでの観測により発見された。直径は推定40~90メートルで、4年かけて太陽の周りを公転する。日本の小惑星探査機「はやぶさ」が探査した「イトカワ」、「はやぶさ2」の「リュウグウ」などと同様、公転軌道が地球の軌道の内外をまたぐ小惑星分類の一種「アポロ群」に分類される。今月17日時点の情報で、2032年12月22日に米航空宇宙局(NASA)は2.6%、ESAは2.4%の確率で地球に衝突するとしている。
ESAは「天文学者らは軌道の不確実性を低減し、衝突のリスクを排除するよう努めている」「リスクは非常に低く、またこの小惑星は小さいので潜在的な影響も局所的だ」と解説。一方で、地球で暮らす人類を天体の衝突から守る「プラネタリーディフェンス(惑星防衛)」の研究者の間で「注目に値する状況だ」としている。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の想像図(NASA提供)
リスクを精査するべく、2021年から運用中のジェームズウェッブにより、来月初頭と5月に観測する計画が決まった。より正確に軌道を求め、地球に衝突するかどうかを判断する。2024YR4はやがて地球から遠ざかって地上から観測できなくなり、28年に再び見えるようになる。この間もジェームズウェッブが観測するという。
小惑星の直径は、地球に衝突した場合の影響を大きく左右する。しかしこれまでの2024YR4の可視光による観測では表面の反射率が分からず、直径の推定値に大きな幅が残っている。ジェームズウェッブの赤外線観測により、絞り込みを試みる。
地球では歴史上、大小の天体が衝突を繰り返しており、白亜紀末の6600万年前には、直径10キロの天体が恐竜絶滅の大きな原因になった。2013年にはロシア・チェリャビンスク州で同17メートルの隕石により、1500人が負傷するなど深刻な被害が起きた。29年4月には同340メートルの小惑星「アポフィス」が、地球にわずか3万2000キロまで近づく。一時は地球に衝突する恐れが指摘されたが、後の詳しい軌道計算により否定されている。
今回の2024YR4は、2004年に発見されたアポフィス以来、最も重大なケースという。ただ、ESAは「98%の確率で安全に地球を横切る」とも表現。今後の精査により、リスクはゼロに近づくとみられている。現時点では関心を抱きつつも不安は抱かず、冷静に受け止めたい。
プラネタリーディフェンスは1990年代に研究が本格化。太陽系では143万個あまりの小惑星が見つかっている。うち3万7600個が地球に接近するタイプだが、直径10キロ以上のものは全て発見済みとみられ、恐竜を絶滅させた規模の衝突の心配はないとされる。ただ、1キロ以下のものは発見数が増え続けており、未発見の天体が多いことを物語っている。
地球に接近するタイプの小惑星の発見数の累積。直径1キロ以下のものの発見が増え続けている(NASA提供)