農業の常識が変わる…クボタが仕掛ける「ソーラーシェアリング」の全貌

ビジネスジャーナル 1 月 前
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農業の常識が変わる…クボタが仕掛ける「ソーラーシェアリング」の全貌の画像1写真はクボタ提供

●この記事のポイント
・農業機械メーカーのクボタが、農業と発電を両立させる「営農型太陽光発電」に注力。再エネ供給だけでなく、耕作放棄地の活用や地域農業の活性化を目指している。
・この事業は、農家・地権者・クボタの三者が協力する新しい仕組み。農作業に配慮した設計で、農業生産を維持しながら安定した収益を生み出す。
・クボタは、この事業を「地域の資産」として育て、2030年までに50億円規模に拡大する計画。農業の持続可能性を高める挑戦として注目されている。

 農業機械メーカーとして世界的に知られるクボタが、いま注力しているのが「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)」だ。農地に太陽光パネルを設置し、農業と発電を同時に行う仕組みである。再生可能エネルギーの供給に加え、農業の持続性や地域農業の活性化に寄与する新しい事業モデルとして注目を集めている。

 同社の取り組みについて、クボタ イノベーションセンター カーボンニュートラルビジネス企画室 室長の楠本敏晴氏に話を聞いた。

●目次

  • 「農業振興」が第一目的
  • スキームの特徴:三者の協働で成り立つ仕組み
  • 耕作放棄地の再生という価値
  • 地域とともに育てる「資産」へ

「農業振興」が第一目的

 楠本氏が強調するのは、営農型太陽光発電の主眼が「再エネの供給」ではなく「農業の振興」にある点だ。

「営農型太陽光発電は、農地を有効活用しながら再生可能エネルギーを生み出す仕組みですが、我々が最も重視しているのは地域農業の活性化です。農業を継続することが前提であり、それがなければ事業は成立しません」(楠本氏)

 クボタはこれまで培ってきた農業分野での知見や信頼を活かし、農地を舞台にした新しい価値創出に踏み出した格好だ。背景には、日本の農業人口の減少や耕作放棄地の増加といった社会課題がある。

スキームの特徴:三者の協働で成り立つ仕組み

 クボタのモデルは、農業法人・地権者・クボタの三者の協力によって成立する。

 1.地権者は農地の「二階部分」を貸し出す形で区分地上権を設定し、賃料を受け取る。
 2.農業法人は従来通り農業を継続。収穫物は自らの判断で販売できる。
 3.クボタは太陽光設備に投資し、得られた再エネを工場に供給。農業法人には「営農委託費」を支払い、収量減や作業負担増を補う。

 この仕組みにより、農業生産は維持されつつ、エネルギーの地産地消が実現する。

 発電設備は、農作業への影響を最小限に抑えるため細心の配慮が施されている。

・遮光率は30%に設定。農業が成立するバランスを重視している。
・パネルの高さは地上3m超を確保。標準的な大きさのトラクターやコンバインが走行可能だ。
・支柱間隔は5mで、上記(or標準的な大きさ)のトラクターやコンバインが1往復できる設計。またはパネルの高さは地上3m超、支柱間隔は5mを確保。標準的な大きさのトラクターやコンバインが走行し1往復できる。

 実際に導入した農家からは「最初は慣れが必要だが、問題なく作業できる」との声が寄せられている。

耕作放棄地の再生という価値

 クボタのプロジェクトの約半数は耕作放棄地で展開される予定だ。草に覆われ荒れていた土地が、営農型太陽光発電の導入によって再び農地として息を吹き返す。

「地域の方々からは『農地が再生されてうれしい』という声を多くいただきます。担い手不足で荒れ地となっていた土地に新しい価値を与えることができる点が大きな魅力です」(楠本氏)

 2024年7月に栃木県・茨城県で始動したプロジェクト[SN2] では、200カ所・総面積80haにわたる営農型太陽光発電所の建設が進む。

・設備容量:約20MW
・年間CO₂削減量:約10,400トン
・栽培作物:米・小麦・大豆など

 すでに40カ所が稼働しており、収穫された大麦や米は品質・等級ともに問題ない水準を確保している。遮光による生育の遅れは一部見られるものの、全体として収量もおおむね維持できているという。

 クボタは東京農工大学と共同で、最適な栽培方法を模索する研究を進めている。大学の圃場に設置した設備で、遮光率30%・50%など条件を変えて農作物を栽培し、環境データを収集中だ。

 こうした科学的検証に基づく取り組みは、営農型太陽光発電の信頼性を高めるうえで不可欠だ。

地域とともに育てる「資産」へ

 現時点ではクボタの自社投資によって展開されているが、将来的には地域金融機関や自治体、地元農家からの出資を組み合わせ、「地域の資産」として営農型太陽光発電を広げていく構想も描いている。

「単なる発電事業ではなく、地域に根差した持続可能な農業モデルにしていきたい。将来的には異業種の企業とも連携し、事業の幅を広げていく考えです」(楠本氏)

 2027年度以降は、パートナー企業との共同出資やノンリコース融資を組み合わせた事業展開を検討中だ。さらに、農業部分への直接的なコミットや海外展開の可能性も視野に入れている。

 楠本氏は「2030年に向けて50億円規模の事業に育てたい」と意欲を示す。営農型太陽光発電は、農業とエネルギーの双方を支える新たな成長領域として期待されている。

 クボタの営農型太陽光発電事業は、単なる再エネビジネスではなく、「農業振興」を軸に据えた挑戦だ。耕作放棄地の再生、地域農業の活性化、再生可能エネルギー供給という三つの価値を同時に生み出す仕組みは、日本が直面する課題の解決策となり得る。

 農業機械メーカーから“農業×エネルギー”の新たな担い手へ。クボタの挑戦は、持続可能な社会づくりに向けた大きな一歩となりそうだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

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