米国で寿司ロボット需要が爆発的急伸…米飯加工ロボットメーカーの海外展開が加速

ビジネスジャーナル 4 週 前
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米国で寿司ロボット需要が爆発的急伸…米飯加工ロボットメーカーの海外展開が加速の画像1UnsplashのLuigi Pozzoliが撮影した写真

●この記事のポイント
・米国で“寿司”や“おむすび”などを製造する米飯加工ロボットの販売が伸びている
・米飯加工ロボットメーカー大手、鈴茂器工の2025年3月期ののり巻きロボットの年間販売台数は19年3月期のおよそ2.5倍に急伸
・米飯加工ロボットの販売を通じてお客様の効率的な店舗オペレーションを支援すること にとどまらず、さまざまな事業課題の解決策を提案し事業の拡大を目指す

 米国のスーパーでは寿司の販売が日常的になりつつあり、寿司をはじめとする日本的米飯食を提供する現地資本の飲食店も増加を続けている。そうした流れのなかで鈴茂器工の米飯加工ロボットの販売が伸びている。同社の2025年3月期におけるのり巻きロボットの年間販売台数は、北米市場において19年3月期のおよそ2.5倍に急伸。28年3月期には北米市場の売上高を25年3月期の2.4倍、約53億円と見込んでいる。

 さらに米国では現地事業者にとどまらず、日系の大手回転寿司チェーンの出店が加速、寿司業態以外の日系外食チェーンも米国市場へ新規進出するなど、日本的米飯食の市場拡大に伴い米飯加工ロボットの需要も右肩上がりが予想されている。鈴茂器工の谷口徹社長に、米国市場の動向と北米事業を中心に海外事業拡大に向けた戦略について聞いた。

●目次

  • トップシェアを続ける米飯加工ロボットメーカーのソリューション提案
  • 米国市場の動向と高関税政策の影響は
  • 海外市場における日系の食材卸売会社との協業
  • 中期経営計画「Next2028」

トップシェアを続ける米飯加工ロボットメーカーのソリューション提案

米国で寿司ロボット需要が爆発的急伸…米飯加工ロボットメーカーの海外展開が加速の画像2鈴茂器工・谷口徹社長

――国内市場における御社の米飯加工ロボットは長きにわたりトップシェアを続けていますが、その要因は何でしょうか。

谷口 当社が国内市場において米飯加工ロボットのトップシェアを維持もしくは拡大を続けている主な要因は、「製品力」「サービス・サポート力」そして「提案力」にあると考えています。

 まず「製品力」ですが、米飯加工ロボットには、「省人・省力化」「省費化」「省技術化」「衛生的」という4つの価値があると考えています。

 米飯商品を作る人の作業の一部を減らす、もしくは無くすのが「省人・省力化」です。「省費化」とは、一定量を正確に成型もしくは盛付けることで無駄な米飯コスト(費用)を抑制すること、「省技術化」は、寿司職人を介さず早く美味しく均質に寿司を作ることや、人手で素早くごはんをふっくら美味しく盛付けるという人手による技術を省くことができます。人手の作業を削減するので「衛生的」であるのは言うまでもありません。

 次に「サービス・サポート力」ですが、当社は国内事業において24時間365日のサポート体制を敷いています。お客様の現場で起こる食品生産の不具合やオペレーション上の課題にタイムリーに対処することで安心感を提供し、他社製品からのテイクオーバーや継続的な当社製品の入れ替えを実現してきました。

 最後に「提案力」です。当社は製品販売にとどまらず、お客様の現場のオペレーショ ン改善、商品開発、売り場・売り方など、いかに店舗の売上を高めるか、効率的に運営するかなどお客様の事業課題を解決するという観点で様々な提案を行っております。

――どのような提案を行っているのですか。

谷口  申し上げましたとおり、単に製品を販売するだけでなく、お客様のビジネス全体をサポートする総合的なソリューション提案を心がけております。

 例えば、寿司ロボットの導入後も、より美味しい米飯商品を効率的に作るための最適なオペレーションや、新しい米飯メニューや効果的なメニュー構成についても提案しています。さらにスーパーマーケットのお客様向けには、商品の魅せ方や陳列方法まで踏み込んだアドバイスを行っています。最近では自社の米飯加工ロボットに加えて、自社で開発したオーダーシステムや店舗オペレーションの見える化や効率化に資する自社システムなどの提案活動も強化しており、お客様の売上向上とコスト抑制に貢献することを目指しています。

米国市場の動向と高関税政策の影響は

――北米市場では、のり巻きロボットの年間販売高が過去5年で2.5倍に増えましたが、 トランプ政権による対日関税率の引き上げによる影響について、どのような見通しを立てていますか。

谷口 北米市場における関税の影響は、中期的な視点でみれば限定的と考えています。

 関税比率の引き上げにより米飯商品のみならず様々なモノが値上がりすることで消費の減退や景気の停滞が起こりお客様の設備投資は抑制されますが、一定の期間を経れば再び投資需要は高まってくるとみています。

 米国市場について詳しくご説明しますと、米国では1980年代後半から90年代に第1次寿司ブームが起こりました。この時は寿司を扱う外食店舗が増え、カリフォルニアロールが生まれるなど一定の消費者層の間で寿司が非日常食として人気化しました。ただこの時はまだ大量かつ均質に美味しく寿司を作るまでには至らず、人手で十分賄えるため機械化すなわち寿司ロボットの需要は大きくありませんでした。

 私は数年前から本格的な寿司ブームが始まったと実感していますが、今回の流れは米国において寿司が一定の日常食になりつつあり消費者が増えていること、そして寿司を提供する事業者が効率的かつ均質に美味しく寿司を作り提供することを追求するようになり、そのための機械化が進んでいます。

 現在は寿司を提供する外食事業者が拡大していることはもちろんですが、日本とは桁違いの店舗数を有する大手スーパーマーケットチェーンでも相応の量の寿司が提供され始めていることから消費者の増加が実感できます。さらに、例えばロサンゼルス(カリフォルニア州)では、労働者の最低賃金は1時間17ドル(約2500円)を超えていますし、2030年までには一部の業種で30ドルまで引き上げることが義務付けられます。こうした流れを踏まえると寿司の生産における機械化は限りなく必然になってくると考えています。

 従って、一時的な消費や景気の減退があっても、中期的には当社の北米事業は、さらに拡大していくと確信しています。

――米国の関税対策として、御社は「米国子会社への在庫積み上げ」と「4月から6月まで集中的な製品出荷」を発表していますが、この対応をとった背景は何でしょうか。

谷口 当社は当初4月に発動すると言われていた関税対策として、発動される前に在庫を 積み上げて、一定期間はお客様へ関税による値上げ前の価格で当社製品を提供できるようにと考え、3月までに相応の在庫を確保しました。

 一部のお客様にはそうした対応をご評価いただき前倒しの購入に繋がりましたが、関税率や発効時期が二転三転したことに加えて、消費や景気の不透明さから設備投資を抑制もしくは当面の様子見をするお客様が多くみられたことから「4月から6月までの集中的な製品出荷」には想定していたほど繋がりませんでした。

 ただ関税率も決まり、現状は消費や景気の大きな混乱もみられないことから、徐々にお客様の設備投資行動も回復してきています。

――積み上げた関税前の在庫が切れて以降は、値上げに切り替える方針ですか。

谷口 お客様には申し訳ありませんが、関税後の製品については当社も価格を引き上げる ことになります。ただ製品の値上げではなく関税分を引き上げるので、販売明細にはそれをきちんと明記してお客様との取引の透明性を確保していきます。

海外市場における日系の食材卸売会社との協業

――22年3月期から25年3月期までの中期経営計画「Growth2025」の振り返りで、海外事業では「潜在需要に対する戦略的な取り組みが不十分」と課題を指摘していますが、具体的 にはどういったことを意味しているのですか。

谷口 これまでの海外事業における当社の販売活動は、厨房機器商社などの販売店やお客 様からのダイレクトな問い合わせに対して応える受動的な販売活動が主でした。それでも日本食の普及拡大に加えて、競合他社が1、2社と少なく国内におけるトップメーカーとしてのブランド力で事業は拡大を続けることができました。

 しかしながら世界という広大な事業フィールドでは当社が把握している以上に潜在的な市場はあり、その潜在的な需要を効率的に取り込むためには、当社が能動的にお客様や販売店にアプローチすることに加えて、新たな販売チャネル網を構築することが重要であると考えています。そうした考えに基づき日系の食材卸会社とより密接な協業を図っていきます。日系の食材卸会社は、日常的に日本食の外食事業者やスーパーマーケット事業者と繋がっていますから。

――どんな取り組みを考えていますか。

谷口 海外の主要市場における能動的かつ効率的な販売促進活動に向けた変革として、国 や都市の市場特性に合わせた多角的な営業戦略を推進します。

 例えば、米国やヨーロッパの 100~1000 店舗規模で展開する外食チェーンやスーパーマーケット等に対しては、日本と同様に当社主体の提案型営業を強化します。単なる製品の紹介ではなく、オペレーションの効率化や売上向上に直結するソリューションを提供することで、顧客の潜在的なニーズを引き出します。

 一方で、店舗数の少ない中小事業者に対しては、販売店や日系の食材卸売会社との連携が鍵になると考えています。例えば米国の日系食材卸売会社は全米の主要都市に拠点を持ち、スーパーマーケットや外食産業への強い販売チャネルを有していますので、当社に代わって積極的な当社製品の販売活動を行って頂く為の勉強会や展示会協力、販売インセンティブの仕組み等を強化していきます。こうした取り組みにより全米へ効率的に当社製品を広げることが可能になると考えています。

中期経営計画「Next2028」

――中期経営計画「Next2028」では、28年3月期のROE12%達成を掲げています。ROE は20年3月期の2.8%から25年3月期には9.6%まで上昇しています。ROE12%の目標に対して、どのように取り組んでいきますか。

谷口 当社は米飯加工機械メーカーというニッチな事業領域に加えて、グローバル市場で 年率平均約12%の成長を実現する企業であり、そうした経営および事業リスクを踏まえた保守的な財務運営が重要であると考えています。前中期経営計画「Growth2025」では、来年春に稼働を開始する大型の生産工場への投資、効率的な経営や事業運営をするためのシステム投資、そして新事業領域も含む様々な開発投資など新たな成長軌道の実現に向けた様々な投資を実行してきました。そうした投資コスト先行の中でROEが改善されたのは、コスト増を上回る利益成長が実現できたからです。中期経営計画「Next2028」でも保守的な財務経営を基本とするのは変わりませんが、これまでに実行した成長投資の効果による超過利益を実現しながらROE12%を達成していきます。

――中期経営計画「Next2028」の基本方針で「真のグローバル企業体制の構築」「付加価値 創造型企業への進化」を掲げています。この基本方針についてもう少し詳しく聞かせてください。

谷口 まず「真のグローバル企業体制の構築」についてですが、一言でいうと全社挙げてグローバル事業拡大に取り組むということです。これまでの当社の海外事業は日本食文化がグローバルに普及・浸透していく中で自然に事業が拡大してきましたので、海外事業部門のみが受動的に活動するだけで良かったのです。

 しかし世界の市場は私たちが想像する以上に大きくて深い。世界のニーズを捉えた製品開発を国内発で行うこと、日本とは桁違いの潜在的な機械需要に応える生産体制やサプライチェーン体制を日本発で構築すること、国内営業部門と海外営業部門が一体となって日系およびローカル資本の様々な業態のお客様の開拓を行うこと、そして日本では確立されている機械販売後のアフターサービス体制をグローバルで展開することなど、これらを全社挙げて取り組んでいきます。

 次に「付加価値創造型企業への進化」ですが、当社はマシナリーセールスからソリューションプロバイダーへ転換することを意図しています。当社はこれまで「省人化」「省技術化」「省費化」「衛生」機械の提供を通じてお客様の課題解決に貢献してきましたが、お客様が抱える事業上の課題は多岐にわたります。例えば外食事業者の店舗運営では人手不足、労働賃金の上昇、資材の高騰等を背景に厨房やホールのオペレーションの効率化や見える化、新業態の開発、海外進出など様々な取り組みを行っています。

 当社は米飯加工ロボット以外にも、POSやオーダーシステム、衛生資材などの自社製品を有しています。また最近はAIを活用した配席システムやレジシステム、オーダーシステムと米飯加工ロボットを連動させた自動おむすび生産ラインなどの開発にも取り組んでいます。こうした自社のソリューション製品群に加えて、当社は長 年の事業活動で培ったノウハウや業者ネットワーク、さらにはグローバルな食に関する市場情報等も有しています。こうした当社の事業リソースを活かして多面的なお 客様の課題を解決するソリューション企業に進化し、お客様の「ファーストコールカンパニー」を目指します。

――サステナブルな企業成長の実現に向けた次世代経営者を含む人材の育成も重要な経営 課題だと思いますが、具体的な人材育成への考えをお聞かせください。

谷口 社長としての私の一番大きなミッションは、当社をサステナブルなグローバル成長 企業として経営基盤を強化・再構築することです。そしてその基盤を支えていくのは人です。私は当社の社会的な存在価値を理解し、当社の未来を描き、時代に合わせて当社を進化させていく、次世代、次々世代のグローバル経営者、人材を育てていきます。そのための育成投資を積極的に実行していくとともに、社員との対話を増やし深めていきます。

――最後になりますが、前の中期経営計画「Growth2025」の期間で株価は約3倍になりました。一方、足元の株価は大きく低迷しています。今回の中期経営計画における御社の株価 対策についてお聞かせください。

谷口 当社の株価は3月に2605円の上場来高値を付けた後、5月の前期通期決算発表、2026年3月期第1四半期の決算発表を踏まえて上場来高値から大きく値下がりしてます。株価低迷の主たる要因は足元の業績悪化と慢性的に低い出来高、流動性にあると考えています。

 まず業績ですが、今期はさらなる事業成長に向けた大きな改革期、転換期であるため売上・利益成長を実現するには例年以上にチャレンジングな期だと思います。当社を取り巻く市場は引き続き拡大を続けており中長期的な成長に疑いの余地はありません。今期の第1四半期業績は非常に厳しい結果になりましたが、引き続き業績計画の達成に向けて取り組んでいきます。

 次に出来高、流動性の改善の一つの施策として、当社は個人株主の皆様に「単なる投資家」ではなく「スズモファン」になっていただくことを目指しています。当社はB to B企業ではありますが、当社の製品であるロボットを通じて作られた寿司をはじめとする米飯食はほぼ全ての日本にいる消費者に提供されている身近な企業です。今年の株主総会では、終了後に会場に展示した機械を実際に操作していただく時間を設けました。こうした体験を通じて、当社の技術力や製品の魅力を直に感じていただくことが、エンゲージメントの向上につながると考えています。

 当社の個人株主には、「面白い会社を見つけた」と当社のファンになってくださり、 長期的に株式を保有してくださる方が多くいらっしゃいます。なかには「もっと世の中に鈴茂器工を知らしめて、認知を上げてください。応援しています」と、熱いエールを送ってくださる方も多く、今年の3月に上場来高値を付けましたが、当社の個人株主数は約3割増加したことからも「スズモファン」であることが伺えます。

 さまざまななメディアや IR 活動を通じてまだ当社を認知していない潜在的な株主を掘り起こすことに加えて、既存の株主の方々にも当社の事業内容や将来性について深く理解していただけるよう努めていきます。

(取材・文=小野貴史/経済ジャーナリスト)

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