AI 動画生成ツール「Veo 3.1」のサイトより
●この記事のポイント
・グーグルが動画生成AI「Veo 3.1」を正式発表。自然な音声・効果音生成、画像→動画変換の精度を飛躍的に強化。
・OpenAI「Sora2」との直接対決が本格化。映像生成を“AIプラットフォーム戦略の中核”に据える動き。
・動画生成AIは、広告・教育・SNS・企業研修など多分野を再編し始めている。
Veo 3.1──「映像を会話で作る」時代の幕開け
グーグルが10月に発表した「Veo 3.1」は、同社の動画生成AIの最新モデルであり、生成AI群「Gemini」シリーズの一部として統合的に提供される。
これまでのテキストからの動画生成に加え、「音声・効果音・カメラワーク・人物対話」までを自動生成できるようになった。
特徴的なポイントは以下の通り。
・自然な会話生成:登場人物同士のセリフや声の抑揚を、物語文脈に合わせて自動生成。
・リアルな音響表現:風・水・環境音などを自動的に生成し、映像とシンクロ。
・画像→動画変換の精度向上:静止画から奥行きを解析し、3〜10秒の自然な動画を作成。
・物理シミュレーションの進化:光や流体、衣服の揺れなど、現実の動きを再現。
「Veo 3.1は、単なる『動画を生成するAI』ではなく、会話で映像を編集する“共同制作者”として設計されています。ユーザーが『カメラをもう少し引いて』『このシーンに雨を降らせて』と話しかけると、Geminiがプロンプトを理解し、Veoが即座に反映。生成AIが『映像制作のインターフェース』そのものになりつつあるといえます」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)
Sora2との決定的な違い──リアリズムか、操作性か
OpenAIの「Sora2」は、2025年春の発表以来、映像生成分野で圧倒的な存在感を示してきた。Soraが得意とするのは「物理法則の忠実な再現」である。
時間軸・カメラ位置・物体挙動の整合性が極めて高く、実写と見まがう映像を生成できる。映画制作者やクリエイター層が特に注目している理由だ。
「Veoは、『使いやすさと連携性』を武器としています。Gemini経由でグーグルの他サービス(Drive、YouTube、Pixelなど)と直結しており、スクリプト作成から動画生成・公開までの一貫したワークフローを実現。Soraが『完成度の高い映像』を生む“映画監督タイプ”だとすれば、Veoは『対話で演出を磨く編集者タイプ』といえます」(同)
両社の方向性は明確に異なる。以下に要点を比べてみる。
【Veo 3.1】
生成重視点 会話性・編集性
主な用途 広告・SNS・教育動画
連携範囲 Gemini, YouTube, Drive
出力 会話+音+映像の統合
戦略 AIスタジオ化
【OpenAI Sora2】
生成重視点 物理的リアリズム
主な用途 映画・アート・プロ映像制作
連携範囲 ChatGPT, DALL·E, Voice Engine
出力 高精度な映像のみ
戦略 AI脚本家化
Soraが「映像そのものの品質」を磨くのに対し、Veoは「映像生成プロセスの民主化」を進めている。
背景にある“AI映像プラットフォーム競争”
この両者の競争は、単なる技術対決ではない。本質は「AIが支配する新たな動画エコシステム」の主導権争いだ。
「グーグルにとってVeoは、YouTubeとの連携強化という戦略的意味を持ちます。YouTubeはすでに毎月25億人が利用する世界最大の動画プラットフォームであり、Veoによって生成された動画を、ワンクリックでShortsや広告素材として配信できるようになります。これにより、『AIがつくり、AIが最適化し、AIが配信する』循環が完成するわけです。
一方のOpenAIは、ChatGPTを軸とした『AI制作スタジオ構想』を進めています。Sora2は、ChatGPTで書いた脚本やナレーションをそのまま映像化し、DALL·Eで作った素材を組み込むといった、創作の一体化を目指しています。OpenAIが描くのは、“文章生成の延長線上にある映像表現”です」(同)
どちらの陣営も、映像を「新しい知的言語」として再定義しようとしているといえる。
市場の潮流──“生成映像”がビジネス現場を変える
AIによる動画生成市場は、急速に拡大している。米Allied Market Researchによると、2024年時点で約17億ドルだった市場規模は、2030年には120億ドル超に達すると予測されている。
牽引するのは以下の分野だ。
広告・マーケティング:AIが短時間でブランド動画を量産。特に中小企業が恩恵を受ける。
教育・研修:教材や社内研修動画を自動生成し、社員教育を効率化。
Eコマース:商品画像から自動で360度動画を生成し、購買体験を強化。
メディア・ニュース:テキスト記事を動画ニュース化。SNSでの拡散力を高める。
すでにAdobe、Runway、Pika、Synthesiaなどがこの領域に参入しており、AI映像生成は「生成AIの第2波」と位置づけられている。経営者にとっての最大の学びは、「動画制作は専門家の領域ではなくなる」という現実だ。マーケティング、採用、社内広報──すべてがAIによる動画生成で自動化・高速化しつつある。動画が“社内言語”になる時代が、目前に迫っている。
AI動画生成が生む新しい創造の形
AIが映像を作り出すことは、人間の創造を奪うのではなく、「創造の余白を拡張する」行為だ。
実際、VeoやSoraを使ったクリエイターたちは、従来の映像制作とは異なるプロセスを歩み始めている。
・構想段階からAIと会話しながら企画を練る
・撮影せずにプロトタイプ映像を作る
・音声AIと組み合わせて多言語展開
・AIアバターによるグローバル配信
これらはすでに、スタートアップのプロモーションや投資家向けピッチ動画で活用され始めている。Veo 3.1の「自然対話+即時生成」機能は、こうした新しい制作スタイルを後押しする。
ただし、映像生成の民主化にはリスクも伴う。ディープフェイク、著作権侵害、虚偽広告など、AI動画特有の課題が急増している。
グーグルはVeoで「AI生成ラベル」や「メタデータ署名」の義務化を検討しており、OpenAIもSora2で同様の透明性フレームを導入している。これらの動きは、AI映像の“信頼インフラ”構築競争でもある。誰が最初に「安心して使える動画生成AI」を社会実装できるかが、次の焦点だ。
Veo 3.1とSora2の対決は、単なる技術競争ではなく「映像を誰が語るのか」を問う文化的な戦いでもある。グーグルは「誰もが動画で表現できる時代」をつくろうとしている。OpenAIは「人間とAIが共に物語を紡ぐ時代」を描いている。どちらの未来を選ぶかは、私たち次第だ。
確かなのは、これからの企業にとって“動画はテキストの次の言語”になるということ。そして、AIがその翻訳者になるのだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)