なぜ楽天シンフォニーはケニアで5G事業参入?楽天Gが世界進出を加速

Business Journal 3 週 前
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なぜ楽天シンフォニーはケニアで5G事業参入?楽天Gが世界進出を加速の画像1楽天シンフォニーの公式サイトより

 楽天シンフォニーが、ケニアで通信事業に参入することになった。成長著しいアフリカの地で、いったいどのようなサービスを行うのだろうか。そして、その背景を追っていくと、先行投資がかさみグループ全体の財務状況にも負担が重くのしかかった楽天モバイルの事業拡大にこだわった、楽天グループの狙いが見えてくる。楽天の勝算は、先端技術である仮想化Open RANネットワーク構築の知見を生かした海外進出にあったのではないか。楽天シンフォニーへの取材を交えて追ってみたい。

楽天シンフォニーの事業とは

 革新的なモバイルネットワーク技術を用いた通信プラットフォーム事業をグローバルに展開する楽天シンフォニーは、このほどTelkom Kenya(テルコム・ケニア)と米国のAirspan Networks(エアスパン)と、Open RAN技術の検証やナレッジ共有に向けた覚書を締結した。Open RANとは、仕様がオープンになっており異なるベンダーの機器やシステムと相互接続が可能なRAN(無線アクセスネットワーク)のことだ。

 楽天シンフォニー担当者は「エアスパン社とともに、テルコム・ケニア社の4GおよびNSA方式の5GモバイルネットワークにおけるOpen RAN技術の検証やナレッジ共有に取り組む予定」と述べる。

 ケニア政府が株式の約4割を保有する通信事業者テルコム・ケニアは、日本でいうNTTのような会社だ。エアスパンは、5Gネットワーク向けソフトウェア・ハードウェアのプロバイダーで、エンドツーエンドのOpen RANソリューションを提供する。今後、3社が協力してケニアでモバイルネットワークを近代化・拡充していくことになる。

なぜアフリカのケニアなのか

 楽天シンフォニー担当者は「テルコム・ケニア社との協議に基づき協業します。大規模な商用Open RANネットワークを構築した楽天モバイルにネットワーク機器を提供した知見を生かし、アフリカ地域に限らずグローバルにOpen RANネットワーク推進に貢献してまいります」と説明する。楽天は、ヨーロッパの先進国ドイツでも事業を行っている。ケニア共和国にこだわっているわけではないが、アフリカ地域で大きな需要を見込んでいることは間違いない。

 簡単に日本の通信業界の成り立ちを振り返ってみよう。長らく固定電話で通話していたのが、ポケットベルが生まれ携帯電話になり、やがてNTTドコモの「iモード」という当時、世界的に見ても画期的なサービスに発展した。iPhoneが登場しスマートフォンの時代になった現在でも、日本は携帯社会だといわれる。

 一方でアフリカは、ある意味では日本以上にスマホが必需品になっている。多くのことをスマホを介して行っており、銀行口座のような役割も果たしている。「日本にも携帯を決済に使えるサービスが存在する」という主張があるだろう。しかし、初代iPhoneが登場した2007年にケニアでは、支払いや資金の受け取りが可能なM-Pesaが生まれ、モバイルマネーが世界的に脚光を浴びるキッカケになった。

 銀行口座は、電気や水道のように万人が享受する社会インフラだ。日本に住んでいるとそのように思いがちだが、開発途上国に行くと様相は異なる。収益が見込めない貧困層が銀行口座を開設するのは困難を極めるのだ。

 有線通信インフラは大規模な初期投資が必要だが、国が支援しても必ずしも事業予算は潤沢というわけではない。また、従来のメタル回線には銅が使われていた。多くの人々が生活に困窮するアフリカでは、金属資源として現金化する目的で銅線の盗難が後を絶たなかった。

 そこに登場した携帯電話は、救世主のような存在だった。そして、アフリカは一足飛びにスマホ社会化していったのである。これが、いわゆるリープフロッグ現象だ。

楽天シンフォニーの今後の展望

 首都ナイロビの郊外にケニア政府肝いりでつくられたテクノロジーハブ「コンザテクノポリス」がある。シリコンバレーになぞらえて「シリコンサバンナ」とも呼ばれる。モバイル先端技術への関心が高い同国で、テルコム・ケニアと協業する運びになった楽天。「今後の事業展開については、案内できるタイミングでお知らせします」と語り、含みを持たせた楽天シンフォニー担当者。

 日本とは逆にアフリカ地域では人口が急速に増加している。人が増えれば自ずと携帯市場も拡大していく。アフリカの人口増加率は年間約2.9%で、経済成長率はそれを上回っている。日本でも電波がつながりにくい地域があるが、アフリカ諸国では携帯で通話中に音声が乱れることが日常茶飯事だ。通信キャパシティが限られているなか、スマホユーザー数が増え続け、さらには負荷の大きい動画サービスなどが流行り、スマホの通信量は拡大の一途をたどる。

 先進的なフィンテック事業であるM-Pesaは、ケニアから東アフリカ地域に拡大した。同様に楽天シンフォニーもケニアでの成功を軸にして、アフリカでのプレゼンスを高めることを目指しているのだろう。

 2018年に日本国内の携帯電話(MNO)事業に参入した楽天モバイルは、先行投資がかさみ楽天グループ全体の財務状況にも負担が重くのしかかった。後発で国内シェア獲得のために低価格でサービスを提供しており収益化に苦労した。しかし楽天の勝算は、先端技術である仮想化Open RANネットワーク構築の知見を生かした海外進出にある。それが、無謀とも思えるような巨額資金をモバイル事業に投下した理由だろう。

 楽天シンフォニーは、すでにアメリカ、シンガポール、インド、韓国、ヨーロッパ、中近東アフリカ地域に拠点がある。海外事業は、楽天にとって今後の業績向上をかけた本丸といっていいかもしれない。通信インフラというのは事業規模が大きく、その国のICTセクター全体への影響力がある。

 ITではアメリカの軍門に降った感がある日本。そんななか、楽天は和製IT企業として数少ないグローバルプレーヤーに脱皮しようとしている。

(文=Takuya Nagata/作家、社会開発家、テクノロジー・エキスパート)

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