日産自動車の本社ビル(「Wikipedia」より/ApaApJt )
経営統合に向けた協議が破談となった日産自動車とホンダ。直接的な理由としては、ホンダが申し入れをした日産の子会社化に対し日産が反発したためだと伝えられているが、根底にはホンダとの経営統合によって高額な役員報酬の引き下げや役員ポスト削減を嫌がった日産の役員たちの反対があったとも指摘されている。24年3月期の有価証券報告書によると、経営危機にあるはずの日産の役員報酬総額は約29.3億円と高額であり、ホンダのそれ(約17.9億円)の約1.6倍にも上り、同期に過去最高益を達成したトヨタ自動車の約36.9億円に迫る水準。ちなみに日産の内田誠社長の23年度の総報酬額は6億5700万円。さらに日産の役員の数は50人超にも上り、トヨタ自動車を大きく上回る。全国紙記者は「日産は社外取締役も報酬が高いことが有名で『おいしい仕事』だといわれている。自らの高い報酬とポストを失いたくないがために役員が経営統合に後ろ向きで、それによって協議が破談となり日産の再建が遠のいたのだとすれば、従業員にとっては悪夢としかいいようがない」という。
ホンダと日産は今月13日、経営統合に向けた協議を打ち切ると正式に発表。昨年12月に基本合意書を締結してから2カ月もたたないうちに撤回されたことになる。
日産は昨年11月、世界的な販売不振による業績悪化を受けてグローバルで生産能力の20%削減と従業員9000人の削減を行うと発表していたが、全国紙記者はいう。
「もともと両社は1月中に統合の方向性について一定の判断をする予定であり、ホンダはそれまでに日産がより具体的なリストラ策をまとめて経営の継続性に問題がないことを示してくると期待していた。一方、日産のほうにそこまでシビアな考えはなく、ホンダは子会社化したほうが日産もリストラを進めやすくなるのではと考えて提案したところ、日産から反発を受けた。日産の社員はプライドが高いという社風を十分に理解したうえで、統合話を壊すために、あえて反発を生む提案を持ち掛けたのではないかともいわれている」
保身のために会社の危機を深めた
前述のとおり、日産の経営陣が統合に後ろ向きだった背景には、高額な報酬とポストを失うことを恐れたためともいわれている。実際に日産の役員報酬は高額だ。たとえば上級役員であるエグゼクティブ・コミッティの24年3月期の役員報酬の一部は以下のとおり。
・内田誠 取締役、代表執行役社長兼最高経営責任者:6億5700万円
・スティーブン・マー 執行役:6億7600万円
・坂本秀行 取締役、執行役副社長:1億9000万円
・中畔 邦雄 執行役副社長:1億6900万円
・星野 朝子 執行役副社長:1億6900万円
「両社は持ち株会社を設立して上場させる計画で、持ち株会社の取締役の過半をホンダが選ぶことになっていた。また、12月の両社による記者会見でホンダの三部敏宏社長が『日産のターンアラウンド(=事業再生)の実行が絶対条件』と明言していたとおり、ホンダが日産に経営のスリム化を要求するのに伴い役員数の削減と役員報酬の減額を要求することは必至だった。さらに経営の主導権をホンダに握られるとなれば、日産の役員たちが反発するのも無理はないが、ホンダとの経営統合以外に日産が生き延びる道が見つかっているわけでもなく、保身のために会社の危機を深めたといわれても仕方ない」(前出・全国紙記者)
大手自動車メーカー関係者はいう。
「内田社長は強引に経営統合を進めようとして役員たちからの信頼を失った。そして、リストラで求心力が低下しているところに、ホンダに振り回された挙句に延命策である経営統合の話をまとめられず、社員からも信頼を失い、厳しい立場に追い込まれた。すでに今年度の最終損益が約800億円の赤字になる見通しだと発表されているが、今後、長期発行体格付けが格下げされて社債発行などの資金調達コストが上昇し、さらに25年度も赤字解消のメドが立たなければ、メインバンクからの退任圧力も強まってくる。社内外、そして市場関係者の間で内田社長が経営再建をできると考えている向きは少ない」
これまでの経緯
日産とホンダが持ち株会社方式による経営統合に向けた協議に入ることで合意したのは昨年12月。背景には日産の経営悪化があった。北米事業をはじとする海外事業の悪化などに伴い、日産の2024年4〜9月期連結決算は、売上高は前年同期比1.3%減の5兆9842億円、営業利益は同90.2%減の329億円、経常利益は同71.9%減の1161億円、純利益は同93.5%減の192億円。当初は3000億円の黒字予想だった25年3月期通期の純利益を「未定」に修正し、グローバルで生産能力の20%削減と従業員9000人の削減を行うと発表した。昨年3月に発表した中期経営計画「The Arc(アーク)」では26年度にグローバル販売台数を23年度から100万台増となる440万台に、営業利益率を6%以上に引き上げるとしていたが、11月には撤回した。
資金繰りにも懸念が生じている。日産は25~26年3月期に約1兆円の社債の償還を迎える。また、23年に仏ルノーとの資本関係を見直してお互いの株の15%を持ち合うかたちにした際、ルノーはそれまで保有していた日産株をいったん信託銀行に信託しており、日産は今後買い戻す必要があり、現時点で6億8600万株、約2500億円相当が残っているとされ、その買い戻し資金も必要となる。日産の自動車事業は昨年9月末時点で約1兆4000億円の手元資金を持っているため、すぐに資金繰りに窮する可能性は低いとみられているが、23年3月には米格付け会社S&Pグローバル・レーティングが日産の長期発行体格付けを「トリプルBマイナス」から投機的水準となる「ダブルBプラス」に引き下げ、24年11月にはムーディーズ・ジャパンが日産の発行体格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更(格付け自体は「Baa3(トリプルBマイナスに相当)」で据え置き)するなど、格下げ圧力が強まっている。そのため、社債発行時に大きな上乗せ金利が必要となるなどして資金調達コストが上昇する懸念がある。
そうしたなかで日産が繰り出した延命策が、昨年8月にEVの分野などで戦略的パートナーシップを締結していたホンダとの経営統合だった。予定では今年6月に最終合意を締結し、来年(26年)8月までに両社の持ち株会社を上場させて経営統合が完了する計画だったが、協議はわずか1カ月余りで破談。すでに1月の段階で不穏な空気が流れていた。両社は1月までに統合の方向性について一定の判断をする予定だったが、期限を2月中旬に延期していた。
(文=Business Journal編集部)