もうすぐ「時限爆弾」が爆発する恐れも…“老いるマンション”の深刻な真実

ビジネスジャーナル 15 時 前
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もうすぐ「時限爆弾」が爆発する恐れも…老いるマンションの深刻な真実の画像1UnsplashのTrevorが撮影した写真

●この記事のポイント
・日本の都市部で増え続ける「管理不全マンション」問題に、スタートアップのRing-ndxが挑む。老朽化による住民の合意形成の難しさが最大の課題だ。
・同社は、DXを活用し、管理組合の一部を取得するリースモデルを導入。孤独死や生活の困りごとまで見守ることで、住民の意思決定を支援する。
・誰も本格的に手を付けてこなかった巨大市場に挑むRing-ndx。社会課題を解決しつつビジネスを両立させることで、都市全体の持続可能性を守ろうとしている。

 日本の都市部には、いま大きな“時限爆弾”が潜んでいる。マンションの高齢化と管理不全だ。新築当時は駅近という好立地で人気を誇ったマンションも、数十年が経過すれば住民の高齢化が進み、建て替えや修繕の合意形成は困難になる。結果として「管理不全マンション」が増加し、地域全体の資産価値や治安にも悪影響を与えている。

 この社会課題に真正面から取り組むのが、マンション管理のDXを掲げるスタートアップ、Ring-ndx株式会社である。代表取締役の蔭山貴弘氏は、全国の管理会社や管理組合の悩みに日々向き合ってきた専門家だ。

●目次

  • 管理不全マンションがもたらす社会リスク
  • DXで挑む「合意形成」という最大の壁
  • 「クレームは美しいダイヤモンド」──シンクタンク型の発想
  • 巨大市場に挑むスタートアップ
  • スタートアップにとっての「社会課題」というチャンス
  • 「老いるマンション」問題の先にある未来

管理不全マンションがもたらす社会リスク

もうすぐ「時限爆弾」が爆発する恐れも…老いるマンションの深刻な真実の画像2蔭山貴弘氏

 蔭山氏は「いま日本の都市部で最も深刻なリスクは、駅近に残された古いマンションの管理不全です」と語る。

 空室が増加した結果、非住宅用途への転用が進み、地域の居住環境に影響を及ぼすケースも報告されている。

 こうした「老いるマンション」の後始末を公費で行うケースも出始めているとの報道もある。蔭山氏は「このまま放置すれば社会全体の負担することになる」と警鐘を鳴らす。

DXで挑む「合意形成」という最大の壁

 マンション管理のDXというと、アプリやシステムの導入をイメージしがちだが、Ring-ndxが注目するのはもっと根源的な課題――住民合意の形成である。DXの本質は、意思形成の透明化とプロセスの簡素化にある。

「不動産業界はDXが最も遅れている分野の一つです。その理由は、最終的な意思決定者が“住民”であり、彼らの合意を得なければ何も進まないからです。特に高齢化した住民に新しい仕組みを理解してもらうのは容易ではありません」(蔭山氏)

 そこでRing-ndxは「管理組合の一部を取得し、リースモデルを導入することで、住民の意思形成を支援する」というアプローチを取る。単にシステムを提供するのではなく、管理組合の一部を購入して共同所有者となり、運営主体としてリースモデルを導入する。住民は賃借人として住み続けながら、運営はプロに任せることができる。

 さらに、LINEを活用して居住者と日常的に接点を持ち、孤独死や生活上の困りごとを即座に把握できる体制も整えた。蔭山氏は「共用部分だけでなく“居住空間の内側”まで見守ることが、最終的な目標」と語る。

「クレームは美しいダイヤモンド」──シンクタンク型の発想

 Ring-ndxのビジョンはユニークだ。蔭山氏は「クレームは美しいダイヤモンド」と表現する。

「住民からのクレームは、ただの不満ではなく“潜在的なニーズの集合体”です。クレームを集めて解決し、その情報をシンクタンクのように分析・提供することで、新しいサービスを生み出せる」

 同社には12万人規模の専門家・経験者ネットワークが存在し、マンション役員経験者や建築・法務のプロフェッショナルが参加している。案件ごとに最適な専門家をマッチングし、労働集約型の旧来モデルに依存せずに効率的なソリューションを提供するのが特徴だ。

巨大市場に挑むスタートアップ

 日本のマンション関連市場は約30兆円で、そのうち「管理不全兆候のある市場」は4兆円規模との試算もある。Ring-ndxはまさにこの“誰も本格的に手を付けてこなかった領域”に挑む。

 もちろん課題は多い。蔭山氏は、多摩地域で取り組んだ「マンション再生プロジェクト」を例に挙げる。

 住民の意思形成が纏まらずに頓挫し、「住民合意の難しさと市場価値への影響を痛感した」と語る。それでも諦めないのは、「放置すれば、住民の安全が守られないだけでなく、地域全体の安全・安心にも影響する」からだ。

 大手不動産各社や行政とも連携し、少しずつ解決策を探る日々である。

スタートアップにとっての「社会課題」というチャンス

 蔭山氏は、社会課題に挑むスタートアップの経営者に向けてこう語る。

「社会課題は巨大市場ですが、簡単にはお金になりません。その分、参入障壁は高い。だからこそスタートアップが挑む余地があると思います。

 我々が行政や大手企業に応援されているのも、誰もやっていない領域だからです。信用はなくても、挑戦していること自体が評価される」

 スタートアップに必要なのは「まずは実績を積み重ねること」。

 Ring-ndx自身も、大田区のイノベーションプログラムで表彰されるなど実績を重ね、徐々に存在感を高めている。

「老いるマンション」問題の先にある未来

 人口減少と高齢化は避けられない。マンション管理市場の課題は今後さらに拡大していく。Ring-ndxは、その渦中で「社会課題解決とビジネスの両立」を模索する。

 蔭山氏は最後にこう締めくくった。

「難しい問題だからこそ、誰かが取り組まなければならない。私たちは、仲間としてマンションの中に入り込み、DXを使いながら住民と一緒に課題を解決していきたいと思っています」

“老いるマンション”の再生は、単なる建物管理にとどまらない。都市の安全、住民の安心、そして日本社会全体の持続性に直結する挑戦だ。Ring-ndxの試みは、社会課題をビジネスとして成立させることの難しさと可能性を示している。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

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