
●この記事のポイント
・ワークマンが、疲労回復を促すリカバリーウェア「メディヒール」を発売。遠赤外線効果を持つ鉱石を生地に練り込み、他社の5分の1以下の価格を実現した。
・「メディヒール」は一般医療機器として登録されており、日中の作業用から夜間の疲労回復用へと用途を拡大。ルームウェアとして1900円から提供。
・ワークマンの知名度と大量生産体制が低価格の鍵。他社が広告宣伝費や生産コストを抑えられないなかで、ワークマンは市場の定着を目指す。
ワークマンは今年の秋冬ものを紹介する「WORKMAN EXPO 2025秋冬」でリカバリーウエア「メディヒール」を紹介した。メディヒールは人体が発する遠赤外線を輻射し、血行を促進することで疲労回復を促すという。21年から作業着向けにメディヒール商品を販売しているが、一般向けは今年9月1日から。ルームウエアの長袖シャツは1900円、ロングパンツは1900円とワークマンらしい安い価格帯を実現した。他社が提供するリカバリーウエアは数千円から1万円台が相場だ。ワークマンはなぜ相場より安い価格で提供できるのか。商品開発担当の半田俊也氏に取材し、メディヒールの効果と戦略を聞いた。
●目次
- 8種類の鉱石で遠赤外線を輻射
- 200万枚を生産し、安さを実現
- 来年は春夏向けの展開も
8種類の鉱石で遠赤外線を輻射
9月1日に発売したメディヒール商品は部屋着を想定したルームウエアが中心だ。長袖シャツやロングパンツはいずれも1900円で、男女別に投入する。499円のソックスや2900円のマグネックレス、1900円の膝サポーターなども揃える。また、布団やベッドを想定した敷パッドやブランケットも揃え、価格は1900円に設定した。一般向け商品の発売に至った経緯について半田氏は次のように話す。
「2021年以降投入している作業着用のメディヒールは日中の行動中を想定したものであり、安静時や夜用の商品として一般向けの商品化に至りました。安静時の疲労回復を狙ったリカバリーウエアで、”一般医療機器”として登録されております」(半田氏)
半田俊也氏
メディヒールは疲労回復や血行促進、筋肉のハリ・コリの緩和、筋肉の疲れ低減と4つの効能を謳っている。どのような原理で回復を促進するのか。
「メディヒールは人体が発する遠赤外線を輻射する性質があり、遠赤外線により血行促進や疲労回復を促す仕組みです。セラミックスを中心とした8種類の鉱石が生地の糸に練りこんであり、鉱石が遠赤外線を輻射します。通常の生地は遠赤外線を透過してしまうため、メディヒールのような効果を得られません」(同)
「輻射」とは、熱が赤外線などの電磁波を通じて伝わることだ。8鉱石を含むメディヒール用の糸は市場に出回っているもので、他社のリカバリーウエアも同じものを使っている。だが、ワークマンには服の動きやすさや着心地を追求するノウハウがあり、そうした面は他社製品に対する強みだと半田氏は主張する。
200万枚を生産し、安さを実現
武井壮氏
遠赤外線効果や疲労回復など、メディヒールと同じ効能を謳う「リカバリーウエア」は7000円から1万円以上が相場だ。上下セットで2万円を超える場合もある。対するメディヒールは上下セットで3800円と5分の1以下の価格帯だ。大手の優位性を活かせるため、低価格を実現できるという。
「大手小売店の中で大々的にリカバリーウエアを発売するのは弊社が初です。他社は比較的小規模な業者が多く、認知度や信頼性を獲得するために多額の広告宣伝費をかけなければなりません。弊社は「ワークマン」のネームバリューがあるので、1着に対する広告費は抑えることができます。また、今シーズンでメディヒール商品は200万枚を生産しており、大量生産によって低コスト化を実現しました」(同)
筆者の主観だが、リカバリーウエアを調べてみると他社のブランドは初耳のところが多い。こうした小規模業者は多額の宣伝費をかけつつも、リスクを負えないためワークマンのように数十万着ごとの生産は難しいはずだ。1着当たりの生産コストや宣伝費は大手と比較して多額になり、結果的に高価格になってしまうと考えられる。ワークマンには、年1000万着単位の生産を10年以上にわたって委託してきた生産業者もあり、製品の低価格化を実現してきた。
トークセッションでは「百獣の王」の武井壮氏も登壇。一日に6回も体温を測定する自身のエピソードを交えながら、疲労回復の重要性を訴えた。こうした芸能人を活用できる事もワークマンの強みと言える。
来年は春夏向けの展開も
7月末時点でワークマンは1000店舗超を展開している。最も多いのは一般向けの「WORKMAN Plus」で649店舗。「ワークマン」は283店舗で、「#ワークマン女子」は70店舗を展開する。かつてはプロ向けの作業着店が主体だったが一般向けにシフトした。今回のメディヒールは全業態店で販売する方針だ。
「これまでの作業着向けメディヒールは年間60万枚の売れ行きでした。今回の一般向けは200万枚生産しており、そのうちの190万枚が販売目標です。今期の商品は秋冬ものですが、売れ行き次第では来年の春夏もメディヒールを200万枚ほど販売したいと考えております。メディヒールは表面温度を上げる効果があるものの、脇の下や舌下の温度までは上昇しないため、夏用の商品展開も可能です」(同)
「リカバリーウェア」のGoogleトレンドを見ると、2023年から上昇し始め、今年は昨年を上回る注目度になっている。著名なブランドではチャンピオンが投入したが、ユニクロは進出していない。量販店で先手を打ったのはワークマンだ。リカバリーウエアというジャンルが消費者の間で定着するのか。そのカギを握っているのはメディヒールといえよう。
(文=山口伸/ライター)