「農業とエネルギーの二重収益モデル」…福島・二本松発、営農型太陽光発電の挑戦

ビジネスジャーナル 2 日 前
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●この記事のポイント
・福島県二本松市で営農型太陽光発電を展開する二本松営農ソーラーとSunshineは、発電と農業を別法人化し、収益とリスクを分離する独自スキームで挑戦している。
・発電収入に加え、日射抑制による作物品質向上や支柱の兼用によるコスト削減など三重のメリットを実現。地域住民への「見せる農業」で信頼を築き、若者雇用や地方創生にも貢献している。
・一方、制度の硬直性や設備調達の中国依存など課題も多いが、食料とエネルギーを同時に確保できる営農型太陽光は、日本の脱炭素と農業再生の切り札となる可能性を秘めている。

 福島県二本松市。東京ドーム1.2個分に相当する土地に設置されたソーラーパネルが、静かに電力を生み出している。その下ではシャインマスカットが実り、若い農業従事者たちが汗を流す。営農型太陽光発電──通称「ソーラーシェアリング」の現場である。

 この取り組みを主導するのが、二本松営農ソーラー株式会社と株式会社Sunshineを率いる近藤恵氏だ。発電事業と農業法人を二段構えで運営し、エネルギーと農業を同時に成り立たせる挑戦は、再生可能エネルギーの導入だけでなく、日本の農業の持続性を考える上でも大きな示唆を与えている。

●目次

  • 震災を契機に芽生えた「地方からエネルギーを生み出す」発想
  • ソーラーシェアリングがもたらす「三重のメリット」
  • 地域の信頼を得る鍵は「見せる農業」
  • 日本の農業・エネルギー問題への解答
  • 米・牧草地へ広がる可能性と行政の役割

震災を契機に芽生えた「地方からエネルギーを生み出す」発想

 近藤氏がこの事業に踏み切った背景には、2011年の東日本大震災がある。震災以前は有機農業に取り組んでいたが、経営難で廃業。その経験から「農村は自給自足を誇りにしてきたが、実際にはエネルギーを生み出していない」という現実に気づかされたという。

「震災でエネルギー供給の脆弱さを痛感しました。地方こそエネルギーを生み出す主体になれるのではないか。中央集権的な大規模発電から、分散型のエネルギーへ──まるで大型コンピューターからスマホへの転換のように、エネルギーの形態も変わるはずだと思ったのです」(近藤氏)

 この思いが、ソーラーシェアリングという形に結実した。2021年9月、二本松に完成した発電所は一般家庭600世帯分に相当する電力を生み出す規模を誇る。

 事業スキームはユニークだ。発電を担う二本松営農ソーラーと、農業を担う株式会社Sunshineを別法人として分離している。背景には金融機関の要請がある。

 農地に太陽光を設置するには「営農の継続」が条件だが、農業は赤字リスクが高い。営農の収益と発電の返済リスクを切り分けるため、発電事業から営農法人に「営農支援金」を支払い、農業を維持する仕組みとした。

「金融機関にとって返済の安定性は最重要です。発電と営農を一体化すると農業赤字がリスクになる。だから法人を分け、営農支援金で農業を成り立たせる形にしました」(近藤氏)

 この構造は「農地活用型のエネルギー事業」が成り立つ上での重要な知見となる。

ソーラーシェアリングがもたらす「三重のメリット」

 営農型太陽光の強みは、単なる二重収益モデルにとどまらない。近藤氏が語るメリットは「一挙三得」だ。

(1)電力収入:固定価格買取制度(FIT)による安定収益。

(2)作物への効果:夏場の強烈な日差しをパネルの影が和らげ、シャインマスカットなどの品質向上につながる。

(3)農業コスト削減:パネルの支柱をブドウ棚に兼用し、設置コストを4分の1に圧縮。

「太陽光の影はデメリットと思われがちですが、猛暑の時代にはむしろ作物にとってプラスに働くケースがある。柱も“邪魔”ではなく活用次第で農業資材になるのです」(近藤氏)

 再エネと農業を両立させるだけでなく、互いを補完する仕組みに転化している点が革新的だ。

地域の信頼を得る鍵は「見せる農業」

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 営農型太陽光を進めるうえで欠かせないのが、地域との関係構築だ。大規模太陽光発電(メガソーラー)が景観や環境破壊で反発を受ける中、近藤氏が心がけるのは「論より証拠」だという。

「農村では、周りは黙って見ています。だからこそ“見せられる農業”をすることが大事。説得よりも、収穫された作物を見てもらうのが一番の説得力になります」(近藤氏)

 実際、地元の若者2人を雇用し、農業を支える姿は地域の共感を集めている。「応援したい」という声も増えており、地方創生の観点からも一定の成果をあげている。

日本の農業・エネルギー問題への解答

 近藤氏は営農型太陽光を「打ち出の小槌ではない」としつつも、農業とエネルギーの双方に解決策を提示できると語る。

(1)兼業農家の新しい形:土日に農業を営む兼業農家でも、太陽光収入で安定経営が可能となる。中山間地など従来の大規模農業が難しい地域でも農地維持につながる。

(2)食料とエネルギーの同時確保:農地の5%にソーラーシェアリングを導入すれば、日本のエネルギーの3分の1を賄えるという試算もある。

(3)担い手不足の緩和:収入源が増えることで新規就農者の参入障壁を下げ、農家人口の減少スピードを緩やかにできる。

「大規模農業と兼業農業、それぞれの強みを活かしながら、ソーラーシェアリングがその中間を埋める存在になると思います」(近藤氏)

 一方で課題も多い。制度面では、2013年に導入された農地法上の特例以降、大きなルール改正が進んでいない。農地での発電は「下で農業を80%維持」という数値基準に縛られ、柔軟性を欠いている。

 また、設備調達の面では中国依存が避けられない。パネル、パワーコンディショナー、支柱の多くが中国製で、日本製はコスト面で太刀打ちできない。

「発明は得意でも普及が苦手なのが日本。中国は多少粗くても安価に量産する。普及を進める局面では日本が後れを取ってしまう」(近藤氏)

 規制改革と産業政策の双方が問われている。

米・牧草地へ広がる可能性と行政の役割

 今後の注力分野は「水田」と「牧草地」だ。水田は農地面積に占める割合が大きく、ソーラーシェアリングの潜在力は計り知れない。ただし景観や地域合意のハードルも高い。

「地域ぐるみで進めなければ反発は避けられません。行政が地域調整に踏み込むことが不可欠です」(近藤氏)

 国は脱炭素を掲げ、自治体はメガソーラー規制を強める。この矛盾をどう解くかが今後の大きな政治課題となる。

 二本松営農ソーラーの発電所は、二本松市の約5%に相当する電力を賄う。加えて若者雇用、地元業者への発注、環境教育など副次的効果も生んでいる。

「もしパネルや支柱を地元で生産できれば、地域経済への波及効果はさらに大きくなる。本当はそこまで含めて“地方からエネルギーを生み出す”仕組みを作りたい」(近藤氏)

 営農型太陽光はまだ黎明期にある。だが、脱炭素と地方創生を両立させる可能性を秘めた実験場として、福島・二本松の挑戦は全国に波及しつつある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

二本松営農ソーラーを主題にした映画が公開中
『陽なたのファーマーズ ーフクシマと希望ー』

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