
●この記事のポイント
・株式会社Helpfeelは、FAQ検索技術「意図予測検索」を核とする新戦略「AIナレッジデータプラットフォーム」を発表し、AIを活用した3つの新サービスを公開した。
・FAQから予約・購入まで完結できる「Helpfeel Agent Mode」、問い合わせ管理を自動化する「Helpfeel Support」、顧客の声を分析しFAQ改善を支援する「Helpfeel Analytics」である。
・これにより自己解決から有人対応、改善提案まで一気通貫の顧客支援を実現。既に700サイト以上で導入され、問い合わせ削減やROI向上に寄与している。
FAQに単語を入れるだけで質問予測を提示する特許技術「意図予測検索」を搭載したFAQソリューション「Helpfeel」を提供するテック企業、株式会社Helpfeelは8月27日にメディア向けの事業戦略発表会を開催した。 当日は基本戦略を解説しつつ、AIエージェントに搭載する新機能を初公開。さらに、累計59億円の資金調達に至った背景と今後の成長戦略についても説明した。
戦略について解説する、株式会社Helpfeelの代表取締役CEO・洛西一周氏
Helpfeelの中核戦略は「AIナレッジデータプラットフォーム」だ。これは企業の内外に散らばるマニュアルやFAQ記事、問い合わせログといった情報をひとつにまとめて整理し、AIが「迷わず、正しく、速く」活用できる形に整えた情報基盤を指す。この情報基盤を使うことで、FAQはより的確に回答へ導けるようになり、社内ヘルプデスク対応の効率化につながる。
「近年の生成AIは強力ですが、社内事情を反映できず、回答が曖昧になり実務で使いにくいという課題があります。社内のメール文作成やコールセンター分析のような実務にAIを活用するには、社内に蓄積された膨大なナレッジデータと、分析や検索ができる仕組みが不可欠です。
また、生成AIの回答は企業の公式サイトやFAQなど公開ナレッジの整備状況から大きく影響を受けるため、エンドユーザーに最新かつ正しい情報を提供できるよう、最新かつ正確な情報提供が重要になります。本来必要な公開情報やナレッジの整備が不十分であることは、生成AI時代の企業課題といえるでしょう」(洛西氏)
「答える」から「解決する」へ進化した、3つの新サービス
サービスの紹介をする、株式会社Helpfeelの執行役員・CTO・開発本部長 秋山博紀氏
このような基本戦略を持ちつつ、自己解決チャネルで顧客の課題解決を支援してきたHelpfeelだが、今回発表したのは、答えを提示するだけでなく、解決まで導くAIへと進化した、AIエージェントを含む3つの新サービスの「Helpfeel Agent Mode」「Helpfeel Support」「Helpfeel Analytics」だ。いずれも「AIナレッジデータプラットフォーム」を構成する新サービスとして位置づけられている。
Helpfeel Agent Modeは、FAQとチャットボットを組み合わせ、自然な対話で課題を引き出し、解決まで導くAIエージェントだ。対話型UIを備え、回答内に予約フォームやオンラインストア、地図などを埋め込み、ページ遷移なしで予約や手配まで完結できるようにした。
架空のホテルサイトを使ったデモでは、FAQからチャットモードへ自然に移行し、会話の流れのなかで予約まで完了する様子が披露された。「誕生日」と入力すると関連質問が即座に提示され、レストラン利用や客室演出などの選択肢が会話に沿って表示される。「牛乳アレルギー」などの条件追加にも対応し、ニーズに合わせて次のアクションまでつなげる動作が示された。
根拠が明確な内容は「信頼できる回答」アイコン付きで提示
誕生日に合わせてケーキや客室デコレーションの提案を自動で行い、アレルギー情報などの条件入力にも対応。オプション追加や確定操作までスムーズに進められる
「最初は、お客様が実際に運用しているシステムと連携していただきますが、将来的にはこのミニアプリ自体を当社と一緒に作れるようにすることも検討しています。
社内システムでは、パソコンの不具合がある場合に、問い合わせへのチャット回答からPC交換フォームへとつながり、そのままチャット内で申請まで完了できるなど、社内の問い合わせ自体を減らす仕組みを構築できるのも特長です」(秋山氏)
Helpfeel Supportは、問い合わせを管理するためのプラットフォーム。従来は自己解決を促す検索エンジンの提供が中心でしたが、有人対応のカスタマーサポート業務まで機能を広げることで、AIによる一気通貫の支援を実現する。
具体的には、受信した問い合わせをAIが自動でチケット化し、内容を分類して担当者に振り分け、返信文面のドラフトまで自動作成。オペレーターはAIが用意した内容を確認・送信するだけで初期対応を完了できる。さらに、対応履歴からFAQの改善点を抽出し、自己解決を促すコンテンツの作成も支援するため、問い合わせ件数の削減にも寄与する。
画面中央にエンドユーザーから問い合わせ内容が表示されており、画面右側に社内やAIのやり取りが表示されている
Helpfeel Analyticsは、お客様の声を分析するためのプラットフォームだ。数千〜数十万件規模のメールや電話の問い合わせログをAIが自動で分類・クラスタリングし、既存のFAQ記事と照合して改善案や記事案を提案する。
たとえば、「閲覧数が多いのに問い合わせも多い」といった課題を定量的に特定し、記事の見直しや追記など具体的な改善案を提示。未掲載のテーマについては、実際の問い合わせ内容をもとにFAQのドラフトも自動生成する。これまでコンサルティングで行ってきた分析・改善提案を、継続的に使えるプロダクトとして“SaaS化”した点が特徴だ。
クラスタリング・分析のイメージ
リリース予定については、Helpfeel Agent Modeは10月提供開始予定。Helpfeel Supportはクローズドベータの形で10月から提供開始予定。Helpfeel Analyticsは12月の提供を目標として開発を進めている。
3年平均CAGR80%超、26億円調達で北米展開を加速
直近3年間の年平均成長率(CAGR)は80%超に達している。Helpfeelの導入効果としては、コールセンターの人員最適化に寄与し、問い合わせを20〜64%削減。導入は700サイト以上に広がっているようだ。
「Helpfeelが多くの企業に選ばれる理由は、顧客や社内からの不要な問い合わせを明確に減らし、粗利率や販管費の効率改善、人手不足への対応などで成果が出ていて、投資対効果(ROI)がはっきり示せることにあります。
もうひとつは、AI時代に合わせてウェブやアプリの体験を改善し、デジタルネイティブ世代を取り込めている点です。エンドユーザーが速く正確な体験を求めるなか、Helpfeelの対応によって売上の伸長にもつながっています。AIがPoC段階から、実運用で結果が求められる段階に移る潮流に対し、当社としての答えを示しています」(洛西氏)
2025年8月にはシリーズEのファーストクローズで26億円を調達し、累計59億円に到達。資金はAIナレッジデータプラットフォームの開発体制強化に充当し、公開ウェブサイト、コールセンター、社内利用の複数領域での提供を加速するという。海外需要を追い風に、中長期的には北米市場をはじめ海外展開を進める方針だ。
(取材・文=福永太郎)