「薬が効かない痛み」をVRで軽減──医療現場が注目する新しい治療法

ビジネスジャーナル 1 月 前
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「薬が効かない痛み」をVRで軽減──医療現場が注目する新しい治療法の画像1歯科治療中に「セラピアVR」を使用

●この記事のポイント
・VR技術を活用した「セラピアVR」により、手術中の鎮静剤を50~75%軽減することに成功
・薬物療法だけでは解決困難な慢性疼痛に対し、心理療法とVRを組み合わせた新たなアプローチを開発

 超高齢化社会において慢性疼痛患者の増加が社会問題となる中、従来の薬物療法では解決困難な痛みや不安に対し、VR技術を活用した革新的な治療法が注目を集めている。福岡県に拠点を置く株式会社xCuraが開発する「セラピアVR」は、医療現場での実証実験において鎮静剤の大幅な削減効果を実証し、新たな治療の可能性を示している。同社代表取締役の新嶋祐一朗氏に、VRによる痛み軽減の仕組みと将来的な展望について話を伺った。

「薬が効かない痛み」をVRで軽減──医療現場が注目する新しい治療法の画像2新嶋祐一朗氏

●目次

  • 「薬でも治らなかった痛みがVRで改善」実証データが示す効果
  • 慢性疼痛の根本的解決に向けた心理療法とVRの融合
  • 医療現場での信頼獲得と海外展開への道筋

「薬でも治らなかった痛みがVRで改善」実証データが示す効果

 xCuraが開発する「セラピアVR」は、VR映像を通じて宇宙や海、森といった自然環境を体験させることで、患者の意識を痛みから逸らすデジタル鎮静技術である。同システムでは、単純な映像視聴にとどまらず、呼吸のタイミングや長さをガイドし、催眠療法の技法をデジタル化している。

「国際医療福祉大学血管外科での研究では、セラピアを使用したすべての患者様の鎮静剤が50%から75%軽減しました」と新嶋氏は説明する。鎮静剤の削減は、呼吸抑制などの副作用リスクを軽減し、医師の心理的負担も軽減している。

 注目すべきは、治療中だけでなく治療後の効果持続性である。「薬でも治らなかった痛みがVRを2週間持って帰って装着したところ、腰痛や不眠症が治癒した」との報告もあり、従来の治療法では困難だった症例での改善例が確認されている。

 脳波測定による科学的検証では、VR装着時に瞑想の熟練者と同様の脳波パターンを示すことが判明した。「瞑想の初心者でもVRを装着して呼吸をすることで、瞑想の熟練者と同じような脳波が出ており、こうした脳波が痛みの軽減に効果的な可能性がある」と新嶋氏は分析している。

「薬が効かない痛み」をVRで軽減──医療現場が注目する新しい治療法の画像3

慢性疼痛の根本的解決に向けた心理療法とVRの融合

 日本における慢性疼痛患者は超高齢化に伴い増加の一途をたどっている。慢性疼痛は組織損傷による痛み、神経の圧迫や損傷による痛み、そしてストレスによって感じる痛覚変調性疼痛の3種類に分類される。xCuraが特に注力するのは、3番目の痛覚変調性疼痛である。

「ストレスで痛みを感じる慢性疼痛では、脳の中で痛いという回路ができあがっています。体は痛くないのに脳が痛いと感じるため、リラックスしてもらうことと、痛くないという脳の回路を作る必要があります」と新嶋氏は説明する。

 従来の治療アプローチでは、運動療法、心理療法、手術、薬物療法を組み合わせるものの、77%の患者が治療に満足していない現状がある。その背景には、日本独特の文化的要因も影響している。「痛いとカウンセリングという部分がなく、痛いと注射を打ちに行ったり薬をもらったりという文化で、自分の脳の認知を変えるという文化がない」と新嶋氏は指摘する。

 この課題に対し、同社では自律訓練法や漸進的筋弛緩法といった心理技法をVRと組み合わせることで、カウンセラー不要で自宅でも気軽に心理療法を受けられるシステムを構築した。催眠療法士でもある新嶋氏の専門性を活かし、催眠の技法をVR化させたデジタルセラピーを提供している。

医療現場での信頼獲得と海外展開への道筋

 革新的技術の医療現場への導入には、慎重な医療業界での信頼獲得が不可欠である。「最初は怪しいと思われていましたし、VRでどこまでコントロールできるかを懐疑的に見ている先生も多かった」と新嶋氏は振り返る。

 信頼構築のプロセスでは、段階的なアプローチを採用した。「最初は病院ではなくクリニックで、大きい病院ではなく歯科クリニックなどで実施し、患者さんの主観的なレビューをいただき、そのデータを持って大病院に行っていました」と戦略的な展開を説明する。

 現在は日本国内での30件以上の医療機関、100名以上の患者での検証実績を有し、医師からも高い評価を得ている。医師の声として「麻酔量が減ることによって呼吸抑制や血圧変動も少ないので安全に手術が行えている」「患者さんは皆さん次回も希望するし、お金を払う価値は十分ある」といった評価が寄せられている。

 海外展開についても積極的に検討を進めており、特にフィンランドとの関係が深い。「フィンランドと昨年からやり取りが多く、3回ほど現地に行っています。日本よりもどちらかというと海外の方が早いのではないか」と海外市場への期待を示している。

 事業モデルとしては、VRゴーグルとコンテンツを一体化した月額5.5万円の契約形態を採用し、医療機関での治療中使用から患者の自宅持ち帰り使用まで幅広く対応している。保険適用についても「マストだと思っている」としながらも、点数設定の不透明性から慎重な検討を続けている。

 将来的なビジョンについて新嶋氏は「薬だけでは解決できない痛みをテクノロジーで解決したい。痛みがあることで死にたくなったり鬱になったりしないよう、テクノロジーを通して生きやすい社会にしたい」と語る。超高齢化社会における医療課題の解決に向け、VR技術を活用した新たな治療法の確立と普及に向けた取り組みが続いている。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

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