コンビ「auto N second BQ」(コンビ株式会社提供)
●この記事のポイント
・A3サイズに折り畳める新型ベビーカー「オートエヌ セカンド ビーキュー」が話題に。都市部の子育て世代に向けた革新設計。
・開発元コンビは「狭い玄関や車内でも置きやすい」ニーズに応え、安全性とコンパクトさを両立させたと強調。
・小型化を実現する構造設計の工夫や素材選びに注力。国内外市場への展開やシリーズ化への期待も高まっている。
育児用品メーカー大手のコンビ株式会社が9月(上旬)に発売した新商品「auto N second BQ(オートエヌ セカンド ビーキュー)」が、発売前からSNSを中心に話題を呼んでいる。最大の特徴は、折りたたむと床設置面積がA3サイズになるという驚異のコンパクトさだ。
子育て世代にとって、ベビーカーは生活を支える必需品である一方、収納場所や持ち運びの負担が課題となってきた。その制約を打ち破る新製品は、どのような発想から生まれたのか。開発・販売元であるコンビの開発担当者に話を聞いた。
●目次
- セカンドベビーカー市場に見えたニーズ
- 開発の着眼点:「片手開閉」と「A3サイズ収納」
- 技術的な挑戦──安全性と軽量化の両立
- 店頭での「一番の質問」を解決
- 市場の反応と今後の展開
セカンドベビーカー市場に見えたニーズ
auto N – 1
今回登場した「auto N second BQ」は、生後6〜7カ月頃から使える、いわゆる「セカンドベビーカー」と呼ばれるカテゴリーに属する。生後1カ月頃から使えるフルフラットの「ファーストベビーカー」に続く、2台目として選ばれるケースが多い。
「1才以降などお子様が一人で立って歩けるようになると、ご家庭ではより軽量で持ち運びやすいベビーカーが求められる傾向があります。玄関や車のトランクに置いたときに場所を取らず、かつ片手で操作できるような製品があれば、育児の負担を大きく減らせると考えました」(開発担当者)
つまり、メインの大型ベビーカーに加えて、日常の移動や旅行でストレスを減らす“セカンドベビーカー”としてのニーズに狙いを定めたのだ。
開発の着眼点:「片手開閉」と「A3サイズ収納」
開発の出発点は、利用シーンに直結するユーザー体験だった。小さな子どもと手をつなぎながらベビーカーを操作する場面は多く、片手で開閉できることは必須条件とされた。さらに、近年高まる都市部の居住スペース問題がもう一つの着眼点となった。
「マンションの玄関や車内スペースを広く使いたいという声は非常に多く聞かれました。そこで、片手開閉に加えて、床設置面積がA3サイズ以下に畳めるほどのコンパクトさを実現することを目指しました」
この二つの条件を両立することは容易ではなかったが、同社は数年にわたる試行錯誤を重ねた。結果、片手でボタンを押すだけで自動的に折りたためる“オートクローズ機構”を搭載し、業界でも画期的なモデルを完成させた。
技術的な挑戦──安全性と軽量化の両立
ベビーカーに求められるのは「小ささ」だけではない。むしろ安全性・安定性・耐久性が最も重視される。
「安全基準に適合することは大前提です。その上で、折りたたんだ時に勢いでベビーカーが倒れることがないようにスタンド機能を付けるなど、細部に工夫を凝らしました」
また、軽量化の追求も欠かせなかった。担当者自身が一児の母であり、実体験から「片手で子どもと手をつなぎながら操作できる軽さ」を徹底的に意識したという。結果として、4歳まで使用できる剛性を確保しながらも、床設置面積がA3サイズに収まる軽量設計を実現した。
では、このベビーカーは具体的にどのような場面で力を発揮するのか。
・都市部のマンション:狭い玄関や収納スペースに置いても邪魔にならない
・共交通機関での移動:電車やバスに乗る際、足元に置けるサイズ感
・自動車での帰省・旅行:チャイルドシートと荷物に加え、トランクや座席足元に収まる利便性
特に「特急や新幹線での帰省シーン」は開発者自身の経験から強く意識されたという。
「従来型ではベビーカーの置き場に困り、予約が必要な場合もありました。床設置面積がA3サイズ以下なら足元に収まるので、移動時のストレスを大幅に減らせます」
店頭での「一番の質問」を解決
ベビーカーを初めて購入する家庭にとって、最も大きなハードルは「操作の複雑さ」だ。
「お客様からよくいただく質問が『どうやって畳むんですか?』なんです。スマートフォンのように使い方が事前にわかるものではなく、子育てを機に初めて手に触れる製品だからこそ、操作方法に戸惑うものです」
その課題を解決するのが、今回のオートクローズ機能だ。片手でボタンを押すと自動で折りたたまれ、余計な操作は不要。
「また、セカンドベビーカーはすでに、ベビーカーを使用した経験のある方が、その体験を踏まえて追加購入を検討されるケースが多い製品です。そこで、ベルトや収納カゴが開閉時に引っかからないように設計するなど、細部に至るまで機能を磨き上げ、快適にご使用いただけるようにこだわりました」
従来、セカンドベビーカーの多くは3歳頃までの使用を想定していた。
しかし「もっと長く使いたい」という声は年々強まっている。今回のモデルでは剛性を高め、4歳まで使えるロングユース仕様を実現した。
「お子様の成長に寄り添い、長く安心して使えることは大きな付加価値です。買い替えコストの軽減にもつながるため、ユーザーにとってメリットは大きいと思います」
市場の反応と今後の展開
SNSで発表された瞬間から反響は予想を上回るものだった。
「今回、『できないこと、なくなれ』というメッセージを掲げてオートクローズ機能を中心に発信したところ、これまでの新製品発表時と比べても、桁違いのリアクションをいただきました」
9月上旬から各店舗に順次並んでいる。社内目標としては「セカンドベビーカー市場で過去最大の販売数」を目標に掲げており、発売後の販売も好調だという。
さらに、今後の展望についても前向きだ。
「今回のセカンドと同時に、ファーストモデルでもオートクローズ機構を導入しました。ユーザーの“もう一つの手”となる存在として、製品群を広げていきたいと考えています」
ベビーカーの小型化は単なる利便性の追求にとどまらない。都市部の住宅事情や共働き家庭の増加、公共交通の利用環境といった社会背景に直結している。
企業にとっても、“ユーザーの日常の小さな不満”を丁寧に拾い上げ、それを技術とデザインで解決することが次の市場を切り拓くことを示している。
今回の開発には、ユーザーの実体験に基づく視点、徹底した安全性検証、直感的な操作性の追求があった。これは、あらゆる消費財の開発に通じる学びである。
つまり、「ユーザーの困りごとを言語化し、そこから逆算して技術を組み合わせる」──その積み重ねこそが、生活を変えるヒット商品を生み出す鍵となるのだ。
「A3サイズに畳める」という一見シンプルな特徴の裏には、生活者の声に耳を傾け続けたメーカーの執念があった。ベビーカーは単なる移動手段ではなく、育児における親の自由度を左右する重要な存在だ。その一台が、都市部の狭い玄関や新幹線の足元にすっきり収まり、子育て世代の行動範囲を広げていく。
今回の「auto N second BQ」は、単なる新製品ではなく、“小さな不便を解消することで、大きな生活の変化を生む”というものづくりの本質を体現しているといえるだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)