「窓で発電」で都市が変わる…YKK APだからこそできる建材一体型太陽光

ビジネスジャーナル 2 週 前
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●この記事のポイント
・YKK APが「窓で発電」する建材一体型太陽光の実装検証を開始。都市部の再エネ拡大に新たな解を提示。
・内窓にフィルム型ペロブスカイト太陽電池を組み込み、断熱と発電を両立。景観や施工性の課題にも対応。
・都市のビル群を「発電所化」する構想。災害時のレジリエンス向上や脱炭素経営への貢献を目指す。

 2050年カーボンニュートラルの実現に向け、日本各地で再生可能エネルギーの導入が進んでいる。しかし、都市部では「設置スペースが限られる」という根本的な課題が立ちはだかる。大規模な太陽光発電設備を設置する余地は乏しく、都市における再エネ拡大は新しい発想を必要としている。

 窓・建材メーカーのYKK APは、その解のひとつとして「窓を発電体に変える」建材一体型太陽光発電(BIPV:Building Integrated Photovoltaics)に取り組んでいる。同社は東京都港湾局・東芝エネルギーシステムズ・関電工・東京テレポートセンターとの5者による協定に基づき、東京・お台場のテレコムセンタービルにて実装検証を開始した。

 今回、新規事業開拓部長の中谷卓也氏に、開発の背景や狙い、社会的意義について聞いた。

●目次

  • 建材メーカーが太陽光に挑む理由
  • 都市特有の環境を活かす可能性

建材メーカーが太陽光に挑む理由

――なぜ窓メーカーが太陽光に取り組むのか。

「私たちはこれまで、断熱性能の高い窓やドアを提供することで快適な住環境づくりに貢献してきました。その延長線上に、窓そのものを発電体にするという新しい価値を見いだしたのです。東京都が掲げる再エネ導入拡大目標に対し、建材メーカーとして貢献できる可能性があると考えました」(中谷氏)

 YKK APは、すでに千代田区や札幌市で実証実験を重ね、羽田イノベーションシティでは実証実験ラボを開設している。今回のテレコムセンタービルでの取り組みは、都市型BIPVの本格的な実装検証として位置づけられている。

 同社が今回の実装検証で注力するのは、軽量で柔軟性のある「フィルム型ペロブスカイト太陽電池」だ。特筆すべきは、その設置方式である。

「屋外の外窓ではなく、室内側に取り付ける“内窓”に太陽電池を組み込む方式を採用しました。これにより、施工が容易になり、足場を組む必要がありません。さらに、風雨にさらされないため耐久性が向上します。加えて断熱性能も高まるため、“発電と省エネの両立”という二重の価値を提供できます」(中谷氏)

 外観に大きな変化を与えない点も重要だ。都市の景観を損なうことなく、既存ビルに発電機能を付加できる。

都市特有の環境を活かす可能性

 札幌での実証実験では、屋根に設置された従来型パネルが雪で覆われ発電不能になった一方、壁面の発電体は反射光を活用して一定の発電を続けた。

「雪や隣接ビルからの反射光によって発電できることが確認できました。北向きの窓でも発電の可能性があることは、都市環境に適した新たな知見だと考えています」(中谷氏)

 都市部では「高層ビルが立ち並び日照が限られる」というネガティブ要因があるが、反射光というポジティブ要素を取り込む発想は注目に値する。

――普及した場合、社会や利用者にどのような利益をもたらすのか。

「第一に、都市部における再エネ導入の拡大です。地産地消の電力供給が可能になり、災害時の自立電源としても役立ちます。また、ビル所有者にとっては光熱費削減や環境配慮型不動産としての付加価値向上につながります。テナント企業にとっても、カーボンフットプリント削減に寄与できるでしょう」(中谷氏)

 BIPVの導入は単なるコスト削減策にとどまらず、ESG経営や脱炭素経営を推進する企業にとって戦略的な意味を持つ。

 一方で、課題は少なくない。ペロブスカイト太陽電池は、量産化技術や長期耐久性がまだ確立途上にある。

「太陽電池そのものの性能や耐久性の確立には時間がかかります。私たちの役割は、そうした新素材をいかに建材として実装するか、という点にあります。ガラスやサッシの知見を活かし、安全性や法規適合性を確保しながら市場に届ける。それが建材メーカーとしての使命です」(中谷氏)

 普及に向けてはコストも大きな壁となるが、YKK APは「発電+断熱・防音効果による快適性向上」を複合的な価値提案として訴求していく考えだ。

――今後の展望について伺いたい。

「今回のテレコムセンタービルでの検証は、既存ビルへの適用方法を示すモデルケースとなります。今後は都市のビル群全体を視野に入れ、エネルギーを生み出す“都市の発電所化”を実現していきたい。YKK APは太陽電池メーカーではなく、“BIPVメーカー”として社会に貢献することを目指します」(中谷氏)

 都市の再エネ拡大には、「限られた空間をどう使うか」という発想の転換が不可欠だ。「窓で発電」するというYKK APの挑戦は、その解を提示しようとしている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

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